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やってきました体育祭!

6月下旬、梅雨の時期にもかかわらず降水確率0%の雲ひとつない青空の中、青葉西高校はついに体育祭当日を迎えた。 体育祭実行委員の朝は早い。他の生徒が登校してくる前に道具の搬入や段取りの打ち合わせなどしなければならないため、遅刻魔の七海もこの日ばかりは早起きして、現在慌ただしく仕事をこなしていた。 「一ノ瀬、タスキ足んねーから持ってきて」 「わっかりましたー!」 2年生の先輩にそう頼まれ、七海は体育倉庫へと向かう。その途中、体育祭用に設置されたテントの下にいる修作を見つけて声をかけた。 「修作先輩ー!おはよーございます!」 「お、はよ」 「先輩はこれから打ち合わせですか?」 「んー‥まぁ、そんなとこ」 「今日は頑張りましょーね!」 「おー」 そんな短い会話を交わすと、七海は修作にブンブンと手を振りながら体育倉庫へと急いだ。 明るい笑顔で自然に接してくる“普通の後輩”の七海とは対照的に、いつまでたっても七海との普段の会話に慣れない修作。走り去る背中を見送ると、無意識に深いため息をついていた。 「お前、あいつの事嫌いなの?」 「え、何で?」 「いや、会話のテンション違い過ぎてウケた」 一緒にいた友人にそう言われ、修作は自分の適応能力の低さに少しヘコんだ。 体育祭は滞ることなく進み、無事全ての日程が終了した。体育祭終了後、実行委員メンバーたちは本部テント前に集合することになっていて、委員会の仕事をやり遂げた七海は清々しい表情で委員長の労いの言葉に耳を傾けていた。 「お前、足速いんだな」 「え?」 そう声をかけられて七海が振り向くと、すぐ隣に修作の姿があった。 「リレー出てたろ」 「あ、見ててくれたんですか!オレ短距離は得意なんですよ」 「へえ。マラソンはダメなの?」 「長距離は走ってるうちに飽きちゃいます」 「はは、お前そんな感じだな」 競技での活躍を見ていたらしく、褒められたことが七海は素直に嬉しかった。委員長の話半分に、二人は今日の出来事を振り返ってそのまま少しだけ会話を交わす。 「あっ、すんません!オレ先輩が活躍したとこ見てなくて‥」 「あ‥大丈夫、そんな活躍してねーから」 「マジっすか?!ぷっ‥先輩運動部ですよね?」 「うるせーよ」 修作に頭を小突かれて七海がわざとらしく膨れてみせると、そのあまりにも高校男児らしからぬ態度に修作はたまらず吹き出してしまう。そんな砕けた表情の修作を見るのはなんだか久しぶりな気がして、七海もつられて笑った。 「じゃ、お疲れ様でした!」 「お疲れ様」 修作に別れを告げると、七海は夕日のオレンジに染まる校舎へと走っていく。振り返ると、まだこちらを見ていた修作と目が合い、七海はもう一度大きく手を振った。

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