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無意識に ※
体育祭から10日ほど経ち、校内はあの熱気が嘘のようにすっかり日常に戻っていた。期末テストを乗り切れば、もうすぐ夏休みがやってくる。
体育祭が終わって実行委員の活動がなくなると、七海は修作と繋がる理由がなくなった。
七海にとって修作と会う事が“当たり前の事”になっていたから、それが突然なくなり何か物足りなさを感じていた。近頃、実行委員会の開かれていた放課後の時間になると胸の奥がチリチリと疼き、全身が熱くなるのだ。
七海の身体は今も、あの時の刺激を求めて続けていた。そして
『 今日の放課後、いつものとこで待ってます』
スマホを握りしめていた七海は、気がつくと修作宛にメッセージを送っていた。今までと変わらない、事務的で何の感情も込もっていない文章。
それから程なくして、修作から返事がくる。『行きません』とだけ書かれた文面に、七海はもう一度同じ内容のメッセージを送り返した。それに返事はなかったが、修作は絶対に来ると七海は確信していた。
修作と関わっているうちに、強引に誘えば断われない性格ということを知ってしまったから。
窓際に立って夕空を眺めていると、カラカラと引き戸の開く音がした。音の方へ振り返り、七海は偽物の笑顔を向ける。
「お久しぶりで~す。ってそうでもないか」
七海の思った通り、修作は空き教室へやって来た。10日ぶりに見る修作は相変わらず困ったような怒ったような、中途半端な表情をしていた。
「‥‥なあ、もう体育祭終わったんだけど」
「それが何?」
「何って‥‥。こういうのは委員会がある日だけって」
「委員会終わったら終わりなんてオレ言ったっけ?」
有無を言わさず会話を終わらせると、七海は修作の手を引いて側にあった机に座らせ、いつものようにベルトに手を伸ばす。いつからか時間短縮のために二人同時にするようになり、最初は抵抗していた修作も躊躇うことなく七海のベルトに手をかける。
「先輩やる気あるじゃん」
「っ‥黙れ」
修作に上向きの視線を送ると紫色の瞳にキッと睨まれたが、七海はクスクスと悪戯に笑っていた。まるでその反応を楽しんでいるかのように。
そしてこの時ある思いが頭の中を過ぎる。
“もっと刺激的なことをしたい”
スイッチの入ってしまった七海は、その欲求に抗うことはできなかった。
「ねえ先輩、そろそろ口でやってみない?」
「は?!」
七海に顔を近づけられると、修作は座っていた机から滑り落ちそうになりガタンと大きな音を立てた。耳を疑う提案に目を見開いて口をパクパクさせている修作の姿に、七海はたまらず吹き出す。
「新しいことやってかないとさ、飽きちゃうじゃん?」
「飽きたんならやめればいんじゃね?!」
「伸びしろあるのにやめるなんてもったいないじゃん!はい、場所こうたーい!」
強引に手を引いて修作を立たせると、それまで修作が座っていた机にストンと腰を下ろし、七海は軽く足を開いてみせた。無意識にやっているとはいえ、七海のひとつひとつの動作が修作の理性を確実に壊していく。
「‥‥っ、あ~もーー!!!」
諦めにも似た声を上げて髪をガシガシ掻くと、修作は大きく息を吸い込み意を決して七海の足の間に割り込んだ。
「修作先輩、オレがしたの思い出してしてみて」
ぎこちない舌使いの修作にそう声をかけ、七海はふわりとその髪を撫でる。偽物の優しさで自分自身に暗示をかけて快感を引き寄せると、全身が一気に熱を帯びていくのを感じた。少し強めに吸われると身体はビクビクと震える。
――こんなんじゃ全然足りない
そう思うと髪を撫でていた手に無意識に力が入り、気がつくと七海は修作の頭を押さえつけていた。
「‥‥下手くそ」
「‥‥‥っ」
「手も使ってたでしょ」
その言葉に従うように修作が右手で同時に刺激すると、七海の口からは吐息混じりの声が漏れる。
「そうそう、修作先輩飲み込みは早いんだね」
太ももを叩いて抵抗をみせる修作を笑い飛ばし、七海は静かに目を閉じた。
「あ、はぁ‥‥っ」
粘着質な水音が羞恥心を煽る。ゾクゾクと体中に電気が走り、七海はたまらず修作のシャツを握りしめた。
その時ふと、夕日のオレンジで染まった放課後の美術室が脳裏をよぎる。
『可愛いよ、七海』
そう囁く声がした。とても近くで、とても鮮明に。‥と同時に下半身に強い刺激を受け、七海は身体を強張らせるとそのまま修作の口の中で射精した。
「あっ‥‥!――先生っ‥」
思わずこぼれた名前にハッとし、七海は慌てて口を押さえる。口腔内の異物をどうする事もできず助けを求めてきた修作にタオルを渡しながら、それを聞かれていない事を願ったのだが。
「なあ、今の」
発声が自由になった修作に怪訝な顔で問い詰められ、七海は言いようのない居心地の悪さを感じた。息が詰まりそうで、一刻も早くこの場から消えてしまいたかった。
「先輩ごめん、今日用事あったの忘れてた。先輩のしてあげられなくてごめんね!今度埋め合わせするから」
「おいちょっと待てって!」
慌てて荷物をかき集めていつものように立ち去ろうとした時、修作に手を掴まれる。普段なら簡単に振り払うことができるのに、今は動揺してそれだけの力も入らない。修作の方にゆっくり向き直ってその手からタオルを取り上げると、七海は俯いたまま必死に声を絞り出した。
「何も聞かないで」
「‥‥でも、」
「バイバイ。またラインすんね」
「一ノ瀬!」
修作の静止を振り切って七海は逃げるように教室をあとにした。涙をこらえるのに必死で、この日は笑顔を作る余裕さえなかった。
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