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信頼関係① ※

「戸締まり終わったよー!あと何だっけ?」 「日誌だけ。この前俺書いたから、今日はお前書けよ」 「あー‥うん!分かった!」 日直だった七海と穂輔は、クラスメイトが帰ったあとも教室に残ってその業務をこなしていた。出席番号が前後のふたりは日直やら掃除当番やら、やたら一緒になることが多い。集中力がなくすぐに脱線する七海を、穂輔は呆れながらもいつもうまく操っていた。この日も一通り仕事が終わり、あとは学級日誌を残すのみとなる。 今日は木曜日。 壁に掛かった時計を見ると、修作を呼び出した時間まであと10分もない。こういう日に限ってスマホの充電が切れてしまい、七海は修作に連絡を取ることができないでいた。 「今日なんか用事あんの?」 「え?何で?」 「何かさっきからソワソワしてるし、いつもより落ち着きねーっつーか‥」 穂輔に指摘されて七海は少し気まずそうな表情を見せたが、すぐに笑顔を作る。 「へーき!」 「‥ならいいけど」 「日誌書いちゃうね!」 そう言って自身のトレードマークである赤いポンポンの付いたヘアゴムで前髪を結びあげると、友達には言えない約束のため七海は急いでペンを走らせた。 「ふぃー終わった!」 仕上がった日誌を満足そうに見つめて大きく息を吐いた七海は、再び時計に目をやる。約束の時間からもうすぐ15分が過ぎようとしていた。 「お前、先帰れよ」 「え‥‥わっ、痛っ!何?!イテー!!」 穂輔の方に視線をやると、結んで全開になっていた額を勢いよく叩かれて七海は思わず大声を上げた。ペちんといい音がして、かなりの衝撃だった事がわかる。 「さっきから時計チラ見してんのバレバレなんだよ」 半ば呆れ混じりの表情の穂輔は、額をさすっている七海の手からヒョイと日誌を抜き取るとゆっくりと席を立つ。 「あとはコレ、岡田に渡すだけだから」 そう言って歩きだした穂輔は、七海に背を向けながらヒラヒラと手を振った。 「ほすけぇ‥ありがとー!今度なんかお礼する!!」 「期待しないどく」 七海の方に顔だけ向けてそう言うと、穂輔は歯を見せて笑い教室を出ていった。 穂輔はよく周りを見ている。細かい事にもすぐ気づき、口は悪いが困った時はいつもさり気なくフォローしてくれる。七海はそんな穂輔がとても好きで、心から信頼を寄せていた。 穂輔の後ろ姿を感謝と後ろめたさの気持ちで見送ると、七海は慌てて鞄を拾い上げて修作の待つ空き教室へと向かった。 * 「おー、ご苦労さん」 「うっス」 穂輔が職員室へ入ると、担任の岡田が自席でコーヒーをすすりながら書類の山と格闘していた。どうやら文化祭についての物らしく、穂輔は横目でそれを確認すると、岡田に学級日誌を手渡して足早にドアの方へ向かう。 「あ、稲田!」 岡田に呼び止められ、どうにも嫌な予感がした穂輔は聞こえないフリをしたが、もう一度名前を呼ばれてしまった為仕方なく振り返る。 「‥何っスか?」 「悪いんだけど、ちょっと頼まれてくれないか?」 「はぁ‥?!」 嫌な予感は見事に的中。穂輔は思いっきり眉間にシワを寄せてあからさまに嫌な顔をして見せたが、そんなことはお構いなしに岡田はニッと笑って足元のダンボールを指差した。 * 七海が空き教室の前に着いてドアのガラス窓越しに中を覗くと、まだ辛うじて使える椅子に腰掛けて英語の問題集を眺めている修作の姿が目に入る。七海に気づいた修作は右手を軽く上げて挨拶をすると、手にしていた問題集を閉じて鞄にしまった。 「こんにちはー‥」 引き戸を開けて、七海は少し申し訳なさそうに会釈をしながら教室に入る。近くにあった机に鞄を置くと、七海は無言で修作からの言葉を待った。 「今日は来ないかと思った」 連絡をしなかった七海を責めるわけでもなく、修作はただそう口に出した。日直だった事とスマホの充電切れで連絡できなかった事を伝えると、修作は「そっか」とだけ返した。 言葉数が少ない分、七海は修作が何を考えているのか、その心の中が読めないことが多かった。最近の七海は修作と言葉を交わす時、いつもその様子を不安そうに窺っている様に思えた。 「先輩怒ってます?」 「別に怒っては‥」 「よかった」 安堵の表情を浮かべて修作にふわりと抱きつくと、それが始まりの合図になる。 お互いのベルトに手をかけ、卑しく膨らんでいく欲望を曝して慰めあう。何度も敏感な部分に触れているうちに、七海はどこをどんな風にすれば修作が気持ち良くなるのか、少しずつ分かってきた。反応を確かめながら七海がその場所を集中的に刺激すると、修作は眉をひそめて小さく声を漏らす。それとは対照的に、七海に触れる修作の手はいつも変わらず、ただ七海の指示に従って動くだけ。 「先輩‥もっと強く擦って」 「‥んな顔すんな‥っ」 言う通りに修作が少し力を入れて手を上下させると、七海の身体はビクビクと反応する。それが徐々に抑えられなくなると、七海は左腕を修作の背中に回してギュッとシャツを掴んだ。 「っ‥」 「ん、あぁ‥っ!」 ガタンッ‥ ドアの向こう側で何かが落ちる音がした気がしたが、それと同時に射精したため、七海にはそれが何だったのかを確認する余裕はなかった。 硬く瞑った目をゆっくり開くと、すぐ目の前にはまだ呼吸が整わず、自分の腕を必死に掴んでいる修作がいた。七海は修作に気づかれないように、背中に回した手に少しだけ力を入れて修作の早くなった心臓の音に耳を傾ける。 空き教室はいつもと変わらず静寂に包まれていた。

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