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想定外 ※

修作先輩にメッセージを送ったのは週が明けて2日経った火曜日の事だった。木曜日まで待とうと思ったけれど、せっかくの決意が揺らいでしまいそうで‥木曜日以外にメッセージを送るのは久しぶりだった。 『お疲れ様です。今日予備校ですか?』 たったこれだけの文字を打つのに、今日はすごく時間がかかった。そもそも、先輩の事を考えながらメッセージを打ったのは初めてだ。今まで一度だって、先輩の都合を考えててメッセージを送ったことなんてなかった。だってそんな事しなくたって、先輩は必ずあの教室に来てくれるから。断らないのを知ってて、オレは自分の良い様に先輩を使って‥ホント酷い奴だって思う。こんなの、嫌われたって仕方ない。来るかも分からない返事を待つ間、オレは不安でたまらなかった。 スマホが短く振動すると、思わず身体がビクつく。メッセージが届いた事を知らせるランプが点滅して恐る恐る画面を開くと修作先輩からの返信だと分かり、とりあえず返事をくれたことにホッとした。 『予備校18時から』 いつも通りの短いメッセージ。でも今は、それだけで安心するし‥ドキドキする。 『じゃあ放課後会えますか?』 『OK』 間もなくして届いた先輩からの返信を見て、オレは安堵のため息をこぼした。 「お疲れ」 ぼんやりと窓の外を眺めていると、先輩の声がして振り返る。目が合うとオレは下手くそな笑顔を作って、意識していつもより明るい声で返事をした。 「あ、お疲れさまです!」 「大丈夫なの?」 「うん‥‥。あー、あの‥‥‥」 「なに?」 少し言葉に詰まって、オレは小さく息を吐いてから逸らした目を再び先輩へと向けた。 「この前、先輩の友達のこと、‥‥ごめん、なさい」 上手には言えなかったけど、ちゃんと言葉に出して謝ることができた。少しだけ緩んだ先輩の口元に気づいて、この時オレは、張っていた気を緩めてしまったんだ。 「あー‥‥。いーよ、忘れてた」 そう言った先輩の手が、優しくオレの頭を撫でる。‥忘れてるはずない。瞳の紫がゆらゆら揺れて、それが嘘だとすぐに分かってしまった。優しい嘘。 時々こんな風に優しくされるから、まだ嫌われてないのかもって思っちゃうじゃんか。もしかしたら先輩もオレとおんなじ気持ちなのかなって、期待しちゃうじゃんか。 先輩に触れられると、もう身体は言う事を聞かない。 ‥そんな自分が大嫌いだ。 「今日は一緒にしよっか」 「‥‥なんか久しぶりな気がする」 「先輩緊張してんの?」 「今さらするかよ‥‥」 「座って」 夕日のオレンジが眩しくて、窓の下の壁にもたれかかってその光から隠れるように座り込む。オレに手を引かれた先輩も、促されるままオレの前に膝をついて座った。 今日は初めから距離が近い気がする。‥そう思うのはオレが先輩を意識しすぎているからなのかな。 「‥‥っん、あ、ぁっ」 「‥‥‥っ」 久しぶりに先輩に扱かれて、そこがすぐに熱を帯びるのが分かった。溢れる先走りが先輩の手の動きと同時にグチュグチュと卑猥な水音をたてて、それが耳につくたびに抑えきれない感情が口から漏れる。自分でも嫌になるほどいやらしい声で鳴いて、先輩に縋って。 「‥あっ、ん、ん、っは‥‥ぁ」 「‥‥‥っ」 それでも顔だけは見られたくなくて、先輩の胸に顔を埋めた。すぐ近くで感じる速くて規則的な鼓動も、必死に声を殺す息遣いも、今のオレにとっては興奮剤にしかならない。 先輩のを扱く手が止まるほど感じていた。 「は‥っあ、ん‥‥‥っ!」 酸欠気味で意識が飛びそうになった時、突然襲ってきた激しい刺激に現実に引き戻された。視線を落としてその理由を確認すると、その光景に思わず目を見開く。 「えっ、あ‥っ!あっ、や、やだ‥‥っ!」 先輩の指がオレの胸の突起を引っ掻くように動いて、シャツの上からでも十分すぎるほどのその刺激で喘ぐ声は無意識に大きくなる。 言葉では否定しても身体は嫌になるほど正直に反応して、そしてその快感に飲み込まれて抵抗すらできないまま、オレは先輩の名前を呼んでその手の中に射精した。 シャツを掴んだまましばらく動けないでいると、先輩にポンポンと肩を叩かれ我に返る。恥ずかしくて気まずくて‥頭を上げられないオレは、腕で慌てて顔を隠して先輩の手を払った。 「ご、ごめん調子乗ったかも‥‥痛かった?」 のぞき込んできた先輩は、何かあったんじゃないかと本当に心配そうな表情をしていて、それが何だか無性に腹が立った。 「‥痛いわけないじゃんバッカじゃないの‥‥」 「バッ‥‥。お前人が心配してやってんのにまたそういう‥‥」 「うるさい黙って」 「わっ!ちょっと俺はもういいって‥‥っ」 「よくない」 乱暴に扱いて先輩をイかせると、まだ熱っぽい身体を誤魔化しながらオレは慌てて帰り支度をする。その最中も先輩は「お前熱でもあるんじゃないの」なんて聞いてくるもんだから、流石にオレもちょっとキレた。 この前のことは謝れたけど‥結局この日も駅までの数十分間、ほとんど言葉を交わすなとはできなかった。

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