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未読のままのメッセージ
「1年A組のお化け屋敷行った?」
「行った行った!結構リアルだったよな」
「そうそう!生首とかヤバかったー俺チビりそうになったし!」
「あはは、マジかよー!」
「‥だって。七海くん良かったね」
「うん」
すれ違った生徒達の会話を聞いて、依伊汰は笑顔で七海の頭をポンポンと撫でた。小道具の生首は七海の力作だった。一生懸命作った自分の作品を褒められるのはやはり嬉しいもので、七海は久しぶりに笑顔を見せた。
文化祭2日目。初日の昨日に比べて人が多くなった校舎内を、七海、依伊汰、穂輔の3人は休憩時間を利用して見て回っていた。飲食店はもちろん、ランキング形式の写真展、オカマバーなんてものまであってとても全部はまわりきれそうにない。特に1、2年生の教室がある第一校舎は混雑していて、すれ違う人と何度も肩がぶつかった。
「3年生の教室の方にも行ってみる?そんなに人多くなさそうだよ」
依伊汰がそう言うと、七海の表情が一瞬強張る。が、すぐにぎこちない笑顔を作って二人の方を向いた。
「あ‥っ、オレいーや!先戻ってるから、二人で行ってきなよー!‥」
「‥っオイ!」
穂輔の制止も無視し、七海は二人にヒラヒラと手を振るとその場から走り去っていった。
「‥七海くん、どうしたのかな?」
「あンの馬鹿‥」
人をかき分けて走るスピードを少し緩めた七海は、行き交う人の中から無意識に修作の姿を探していた。来るはずないと分かっているのに、その姿を見つけられずに悲しくなる。
高校の初めての文化祭は、七海にとって少しだけ苦い思い出となった。
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文化祭が終わると年内の行事は期末テストを残すのみとなり、久々に穏やかな日常が戻っていた。12月の空気はとても澄んでいて、マフラーで隠しきれない頬をチクチクと刺激する。悴んだ指にハーっと白い息を吐いた七海は、小さく身震いをしてその手をブレザーのポケットにしまった。
修作と会わなくなって、もうすぐ1ヶ月が過ぎようとしていた。
七海は修作と最後に会った日のことを、あれから幾度となく思い出していた。
先輩は何であの教室に来たんだろう。
先輩は何であんなに泣いたんだろう。
いくら考えても“何で”と繰り返すばかりで、その答えが出ることはなかった。
『俺はその教師にはなれないし‥‥っ、なりたくもないけど!お前がいつまでもそんな顔してるのはイヤなんだよ!ヤるだけヤってお前のこと見捨てるような‥‥っ、そんなクズみてーな奴さっさと忘れろよ!!!』
今もはっきりと記憶に残っている、修作の最後の言葉。修作から先生のことを言われて、七海は正直とても驚いた。なぜならあの時、七海の頭の中には“先生”の存在は全くなかったから。もうずっと前からそうだ。先生の代わりだったはずなのに、あの教室に行くと自分でも気づかないうちに修作のことで頭がいっぱいになっていた。あの時泣いていたのも修作に突き放されたことが悲しくて、もう終わりだと思ったから。だから修作に先生の話をされて、七海は言葉に詰まったのだ。そして。
『忘れてちゃんと俺のこと見ろよ!!!!』
今まで何かを強要するようなことは一切無かった修作からそんな強気な言葉が出たことに驚いたし、その言葉の意味を考えれば考えるほど、ほんの少しの可能性でしかないけれど、もしかしたら修作も自分と同じ気持ちでいてくれるのではかと期待してしまう。そう思ったら余計、あの時残された教室で溢れ出た言葉を伝えられなかったことを七海はとても悔やんだ。修作がせっかく差し出してくれた手を握りそこねてしまったのではないか、もう二度と捕まえることはできないのではないか。‥そう後悔するばかりの日々が続いた。
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日に日に強くなる修作への想いは七海自身が思っている以上に七海の中で大きく膨らんでいて、とうとう会いたいという気持ちが抑えきれなくなる。ある時ふと思い立って、
『元気してますか?』
それだけ打って久しぶりに修作へラインのメッセージを送った。‥しかし、数日経っても既読の文字が付かず電話も繋がらなくて、七海はそこで初めて修作にブロックされていることに気がついた。
(‥だよな、フツー‥)
今までの自分の言動を思い出せば当然の行動だと思ったが、実際ブロックされるとやはりショックは大きく、七海は長めの前髪をガシガシと掻いて深いため息をついた。
「なあなあ、今部活の先輩に用があって3年の教室行ったんだけどさ」
すぐ近くでクラスメイトの話し声が聞こえてくる。もはや“3年”という単語だけで反応してしまう自分にほとほと嫌気が差すが、それでもやはり気になってしまい、七海はその話の内容に耳を傾けた。
「すっげーピリピリしてた!」
「マジで??うわー受験怖ぇ」
「俺、2年後の自分とか想像できねぇわ」
「わかる!将来の事とか全然見えねーし」
「とりあえず大学行って?何すんの?」
「分かんねー!まぁまだ俺ら1年生だしー、関係ないっしょ」
「そうそう、目の前の事でいっぱいいっぱいですから」
ケラケラと笑いながら話すクラスメイトから意識を外すと、七海は再び既読の付かないラインの画面に視線を落とした。
(そっか、修作先輩受験生なんだ。‥どこの大学行くんだろ‥あ、農家だから家継ぐのかな?‥‥そういえばそういう話、全然したことなかったな‥)
そんなことを思うと、今までの関係の無意味さに切なくなる。‥と同時に、七海は心の何処かでホッとしている自分がいることに気づいた。
同じ校舎内にいるのだから、修作に会いに行こうと思えばすぐにできたけれど、七海にはそれができなかった。拒否されている本当の理由を知るのが怖かったから。だからその理由を
“先輩は受験生だから”
‥そう自分自身に言い聞かせて、七海はラインの画面を閉じた。
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