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偶然の再会

三学期が始まってからも、時々修作からメッセージが送られてきた。その内容は日常の何気ない出来事が多く、久しぶりに大雪が降った日には一面真っ白な庭の写真が送られてきたこともあり、七海にはそのどれもが嬉しくて、メッセージが届くたびに心が弾んだ。そしてそのたびに“もっとたくさん話をしていたい”と思うのだが、今はその気持ちを抑えて、七海はいつも自分のメッセージで会話が終わるように文字を打った。 寂しくないといったら嘘になる。いつまで待てばいいのか不安で、友達や家族に八つ当たりしたこともあった。 “ほんの少しでいいから顔が見たい” ある日ふと、そんな思いが頭を過る。一度そう思ってしまったら自分の気持ちを押さえることができなくて、七海はこっそり修作の教室を覗きに行くことにした。 (見るだけ‥見るだけなら、いいよね?) 新学期が始まってすぐに3年生は自由登校となり、3年生の教室がある第二校舎は人も少なく閑散としていた。1年生の七海が3年生の教室に来ることは滅多になく、それだけでも緊張してしまうのだが、それに加えて受験の緊張感でピリピリとしていてとても居心地が悪かった。 それでも七海はE組の教室の前までやってくると、後ろのドアから人がまばらな教室を見回して修作の姿を探す。うつ伏せになって寝ている緑色の髪を見つけて思わず表情が緩んだ。 (いた!修作先ぱ‥あれ?あんなに髪長かったっけ??) 何となく違和感を感じて、ドアの陰から目を凝らしていると、 「‥あの人に何か用事?」 「わーっ!!」 突然背後から声をかけられ、七海は思わず大声を上げてしまい慌てて口を押さえた。振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていてドキッとする。 「あ‥」 「あ、」    その人物とは以前、空き教室で修作と一緒にいたあの時の先輩だったのだ。 「あっ、‥あの!えっ、と‥」 「‥なに?」 いつか謝らなきゃいけない‥頭の隅でずっとそう思ってはいたのだが、再会があまりにも不意打ちすぎて七海はアタフタと慌てるばかり。でもきっとこの機会を逃したら二度と謝れない気がして、不思議そうに覗き込むその先輩に真っ直ぐ視線を向けた。 「ごっ‥ごめんなさいっ!」 「ははっ、なんで謝るの?」 困ったように笑う顔があまりにもキレイで思わず見惚れてしまったから、七海は言葉を返すタイミングを見失ってしまった。 「千代ちゃんだれー?」 先輩の名前だろうか、そう声が聞こえて後ろを振り返ると、緑色の髪の人物が眠たげに目を擦ってこちらを見ていた。先程うつ伏せになっていたのはやはり修作ではなかった。 「あ、違う人だった‥」 「譜久田くん?」 「‥え、は?!ち、違っ‥」 七海が何気なく零した言葉を拾い、その先輩はごく自然な流れでそう尋ねたようだったが、当の七海はまさかその名前を言われるなんて思ってもみなくて、動揺して再びアタフタと慌ててしまう。 「おっ、オレもう行くんで‥っ!」 「あ、」 何だか急に恥ずかしくなって、顔を真っ赤にした七海はペコッとお辞儀をすると、勢いよく3Eの教室から走り去るのだった。 「1年?何か用事?」 「ふふっ、どうだろうね」 「???」 少しだけ楽しそうに微笑みながら、その先輩は慌ただしい七海の後ろ姿をいつまでも眺めていた。 (あの先輩‥エスパーかな‥??) 七海は教室に戻る道すがら、ふとそんな風に思っていたのだった。

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