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第2話

 山田の住むマンションに着いた俺は、――人生で初めて経験する衝撃的な事態に直面し、言葉を失った。 「しゅにん…」  玄関で俺の前に頼りなげに立つ美女。  上目遣いの涙目に、くらくらする。  しかし、泣き顔の美女にうっかりよろめいている場合ではない。  山田は一人暮らしだ。  つまり、浮気でなければこの美女は――… 「…もしかして……やまだ…?」 「しゅにん…! おれ…おれ…女になっちゃった…!」  半信半疑で訊ねた俺に、山田はそう言って泣き崩れた。  めそめそと涙を零して女体化してしまった自分の身を嘆く山田をリビングのソファーに座らせ、なんとか落ち着かせながら話を聞く。  たどたどしい説明に耳を傾け、辛抱強く聞き出した情報は、しかし残念ながらあまり多くはなく、事態の解決に繋がりそうな有益な手がかりも掴めなかった。  山田は朝いつも通りに目覚め、シャワーを浴び、テレビを見ながらトーストとカフェオレだけの簡単な朝食をとっている最中にひどい目眩いに襲われたらしい。  ただ、その目眩はすぐに収まり、不思議に思いながらも残っていたカフェオレを飲み干してトイレに行こうと席を立ったところで、ようやく自分の身体の異変に気付いたのだという。 「洗面所の鏡で…、ちんこの代わりにおっぱいが出来ていた時の絶望がわかりますか…?」  ――ちんこの代わりにおっぱい……。  絶望するほどではない気がする。  と、思った俺はヘンなのだろうか。  普通、一般的にそんな経験をすることはないのでちょっと想像がつかない。  いずれにせよ、山田は絶望したらしい。  俺は不用意な言動は控えることにした。 「何か…思い当たる節はないのか? ……拾い食いをしたとか…腐ったものを食べたとか…あ、魔女に呪いをかけられたとか…ええと、宇宙人に遭遇したとか?」 「拾い食いもしていないし、腐ったものも食べてませんし、魔女にも会ってませんし、宇宙人に(さら)われてもいません」  律儀に答える山田に、「そうだよな」と頷く。俺もちょっとおかしくなっているかもしれない。こんな非現実的な事態への対処は、どんな教科書やマニュアルにも載っていないのだから。

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