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第4話

 しかし。山田は堪能するどころかせっかくのおっぱいを鷲掴んでむしり取ろうとし始める。もはや錯乱状態だ。 「おいやめろって…! おっぱいが傷つく!」 「やっぱり俺よりおっぱいが大事なんだ!」 「バカやろう! おまえのおっぱいだろう! おまえが傷つくのが嫌なんだよ!」  そう怒鳴ると、山田がぴたりと動きを止めた。  そして、両手で顔を覆う。 「う…うぅ…しゅにん~、俺…俺…こんなのヤダ…」  再びべそべそと泣きだした。鬱と躁を繰り返している状態だ。 「ちんこがなくちゃ主任とセックスできない…」  ――おかしなことを言う。 「セックスならできるだろう」 「え…?」 「俺がおまえに突っ込めばいい。忘れていないか? 俺にもちんこはあるんだぞ」 「え…?」 「悪いことばかり考えるな。おまえが女になったなら、俺がおまえを嫁にもらうこともできる。結婚しよう」 「え…」  フリーズしている山田に俺は真面目な顔で畳みかけた。 「女だろうが男だろうが関係ない。おっぱいもちんこも関係ない。俺が一生おまえの傍に居る。だからもう泣くな」 「……主任が男前すぎてつらい…」  山田が泣き笑いでしがみ付いてきた。  ぐっと細く頼りなくなった背中を、トントンと赤ん坊にするように優しく叩く。  失われた逞しい背中を思い出して苦しくなり、泣きそうになるのを我慢する。  もう二度とあの腕に抱きしめられることがないのは、理屈抜きで淋しい。  だが、きっと自分はこの細い背中も愛し慈しむことができるだろう。 「俺が主任にプロポーズするつもりだったのに…」  肩口に涙声で零す山田は、やっぱり俺の好きになった山田だ。 「残念だったな。こういうのは早い者勝ちだ」 「うん、俺、……やっぱり主任が好きだ。俺を主任のお嫁さんにしてください」 「おう」  ようやく笑った山田に、俺はほっとしてキスする。  唇の感触は、男だった山田と変わらなくて、なんだかそれだけのことに安堵した。 「……喉が渇いたな。アイスコーヒーでも飲むか」  照れくさくなって立ち上がり、勝手知ったるキッチンでアイスコーヒーを作る。  ――なぜか、そのアイスコーヒーを飲んだら、山田が男に戻った。 「戻った! 俺、男に戻りましたよ主任!!」  大喜びする山田に抱き上げられ寝室に連れ込まれ俺は突っ込むはずが結局突っ込まれる羽目になり……一度も山田のおっぱいを揉まなかったことを死ぬほど後悔した。カッコつけずに揉んでおけばよかった。あんな奇跡は二度となかったのに、と。

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