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第5話 セツナとの始まり
「目が覚めた。」
爺さんからその一報があって家を飛び出た。
預けて三日目のことだった。
爺さんの診療所をバタンと力強く開く。
「うひゃー!レイか!いつも優しく開けろと言っとるじゃろ!!」
”ぷんすこ!“という音が聞こえそうなほど優しく怒る。
「もうー!」と怒る爺さんに軽く頭を下げる。
顔を上げた時、俺が真剣な顔をしていたせいか、爺さんも医者の表情へと変わる。
「こっちじゃ。」
奥へと通されるとベットから外を見つめる少年の姿があった。
俺が近づくと少年は警戒したようにベットの背もたれに身を引くと布団を深くかぶる。
「俺はレイ。君は?」
しゃがんで目線を合わせ、名を聞くも顔を横に振る。
表情も、穏やかとは言い難い。
「レイ、その子はおそらく売子じゃ。名前も知らん昔のことも覚えてないという。」
※売子 この世界で人身売買の商品の事。
「そうか....。」
うーんと俺が悩んでいると、爺さんがちょいちょいと手招きし俺を部屋の外に呼んだ。
「なんだ?」
立ち上がりついていくと爺さんは周りをキョロキョロし、周りを気にしていた。
個室まで俺を連れていく。
扉の鍵を閉じたところで、爺さんが話し始める。
「あの子は普通じゃない。あの切り傷もう完治しておる。傷が塞がったなんてもんじゃない。完治だ。」
しばらく目を離した間にかなり治癒は進んでおり、昨日にはもうほとんど跡も見つからなかったという。
「そしてあの赤い目を見ただろう?今まで見たことない色だ。申し訳ないがわしゃあの子を匿ってやれん。何か大きな影がある気がするんじゃ。」
ただの診療所の爺さんでは何かあった時彼を守ってやれない。
だからー。
思ったほど俺は驚かなかった。
元々彼は俺は引き取るつもりだった。
そして目のことも体のことも、特に俺の想像を超えることはなかった。
「俺が引き取る。爺さんは安心してくれ。」
お爺さんは豆鉄砲を喰らったような顔をした。
それはレイが“人と関わる”事を今までしてこなかったという事実をお爺さんは知っていたからであった。
「こんな時もお前の目はまっすぐじゃな...。しかし、お前のそばにいればあの子も危険じゃ。そしてあの子のそばにいればお前さんも危険に晒されるかもしれない。それでもいいんじゃな?」
「覚悟はした上で助けた。」
そう答えると爺さんはふと顔を綻ばせた。
「それが聞けて安心じゃ。今日であの子は退院じゃ。何かあったらまた診せにこい。」
ガチャリと閉めた鍵を開くと、2人で少年のいる部屋へと戻った。
「君、このお兄さんが君を保護してくれるそうじゃから今日は一緒に帰りなさい。」
そう告げると、少年の表情が少し強ばり不安の表情でいっぱいになった。
「このお兄さんが君を助けたんじゃよ。安心しなさい。」
そう言って爺さんは少年の頭を撫でると少年は恐る恐る頷きベットから降りた。
俺が歩き始めると、トコトコと少し距離を置いて後ろをついてくる。
「んじゃ気をつけて。あと!これを飲ませなさい。彼の心は今不安定じゃ。広い心で受け入れるんじゃぞ。」
小声でそう告げると大きなボトルに入った薬をいっぱい詰め込んだ紙袋を渡してきた。
「わかった。」
親は12歳の時に死んだ。
俺が対等に話すのは爺さん含め一部の人間だけ。みんなが思い描くような“家族”なんてもんを俺は知らない。
でもこの子には、少しくらい居場所になる人間でいたい。
そう思いながら、少年を連れて帰り道をあるいていた。
俺はそんなに会話が得意なタイプじゃない。
家族もいない俺がそうやって育てていくか。
ボーッとしていると診療所からエレベーターまでの10分ほど2人とも無言で歩いてきてしまった。
エレベーターを前にして不安がよぎる。
俺と一緒にいてこの子は幸せになれるんだろうか。
そう思ったときに俺は少年に質問をした。
「お前、生きたいか?」
それだけ問いかけると少年は答えた。
「生きたい...!悪いやつ全部俺が消してやるんだ....!」
涙ながらに震えた声でそう答えた少年を見て、俺はこの子を殺し屋に育てよう。と決意した。
その日は風呂に入れて飯を食わせて、ゆっくり寝る事にした。
19歳と10歳の男2人で大きいベットの上で2人で寝る。
今まで他の人間と寝た事が無い。
かなり違和感があった。
少年にとって暗闇は不安になるかと思い、オレンジ色のルームランプを灯して布団に入った。
しばらく目を瞑っていると、何やらもぞもぞと布団が動くのがわかった。
目を開けると、ルームランプに照らされた人影が天井に写っている。
どんどん近づいてくるのが影とベットの振動でわかる。
少年が俺の上に跨る。
「どうした?」
と問いかけた。
少年は静かに俺のズボンに手を入れ俺のモノを弄ってきた。
「お兄さんもエッチな事したいんでしょ?」
熱っぽい声で答えると、10歳とは思えない色っぽい表情で俺の股間に自身のモノを擦り付けてくる。
俺の胸の上にピッタリと体をよせると「...っぁ。あっ...。」
と声を漏らし、ケツの穴を自分で解しているようだった。
子供がこんな行動を取るなんて異常だ。いかがわしい躾けをされたのがありありとわかった。
だが俺は目を外せなかった。
彼に心を奪われた瞬間だった。
そして彼と触れ合っている胸も股間のそれも熱くジワジワと熱を帯びていく。
スリスリと布が擦れる音と彼の小さな喘ぎ声だけが異様なほどしっかりと耳に届く。
今すぐその柔らかい穴に突っ込んで今よりもっと色気のある声を聞きたい。
どんな表情をするのか見たい。
しかし理性がストップをかけると、俺の心が彼に気取られる前に少年を俺の上から引きずり下ろした。
「ふざけた事やってないで早く寝ろ。」
大人のふりして彼を突き放す。
俺にはそれしか出来なかった。
興奮を抑える。息を整える。
少しして罪悪感がよぎった。
「お兄さん、セックス好きじゃ無いの?」
肩透かしをくらったように声が裏返る少年。
うっすらと驚いたような表情が見える。
「ベットに入ったらこうしろって、、。」
困惑したままベットに座り込んでいる少年を布団ごと抱きしめる。
少年の身体は軽く、起こしていた体は布団に倒れ込む。
「セックスなんて要らない。セックスする為に一緒にいるんじゃないんだ。」
急に抱き寄せられた少年は、しばらくじっとしていると恐る恐る布団越しに俺の体を細い腕で抱きしめ返した。
「僕のこと大事にしてくれるの?」
布団の中に埋もれた少年のくぐもった声が聞こえる。
「そうだ。」
「怖い人はもういない?」
「俺が全部殺すよ。」
「じゃあ僕を守ってくれるの?」
顔は布団に埋まり、見えないものの声で段々と涙ぐんでいくのがわかる。
「一生守るよ。」
驚いたように布団から顔をひょこっと出すと、
その言葉を聞いて少年は、「神様みたい。」と笑った。
笑顔と一緒に目から溢れてくる涙を俺は指で拭う。
「病み上がりなんだ。今日はもう寝ろ。」
そう言って頭を撫でてやると、静かに目を閉じた。
「おやすみ。」
俺がそう声をかけると、少年はぱちっと大きな目を開いて微笑む。
「おやすみっ。」
きっとおやすみも、言われたことが無かったのだろうと静かな暗闇の中思った。
俺も、初めておやすみを使った。
俺がかけた言葉は正しかったのだろうかと記憶を巻き戻す。
考えているうちに俺は眠りについていた。
朝目を覚ますと、少年が眼前でジーッと見つめていた。
人と一緒にいる時に寝たのは初めてだった。ましてやこんなに見つめられても気づかないなんて...殺し屋失格だ。
「おはよう。」
少年はそういいつつもまだじっと俺を見つめていた。
「おはよう。」
そう返すと二マリと笑う。
そういえば...と少年に近づく。
「お前名前ないんだってな。」
呼び名がないと会話がしずらい。
「うんー、忘れちゃったのかないのかわからない。」
頭を捻り思い出そうと試みるも、何も思い出せないらしい。
「じゃあ俺が名前つけてやるよ。」
「ほんとに?」
嬉しそうに俺を見る。
「セツナって名前どうだ。」
「どういう意味?」
「特にはない...。」
投げかけられる質問にそっけなく返す。
一瞬でも、こいつが独り立ちできるまでの間だけでも、家族のフリをすると....そう決めた時に浮かんだ名前だった。
「難しいけどかっこいい名前!僕セツナだ!」
また笑顔を向ける。
大事にしなければいけない。その反面俺はいつ死ぬかわからない。1人で生きる術を、教えなければ行けない。そしてセツナの望む復讐には、殺しをが必要だった。
大事にしているつもりが、俺が彼を地獄に引きずり込んだんだと、背中に十字架を背負って、俺はこの10年にセツナに厳しく指導した。
俺もセツナも、自分がすり減っていくのに気づかずに、10年。ここまできてしまった。
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