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第3話『筧敦央という御方』

お仕えする事になった殿もまた、俺と同じく養子だった。 ご実家は筧家の親類、比谷(ひたに)城城主神凪家(かんなぎけ)。 代々帝をお守りしてきた大名家であり、殿のお父上である直仁(なおひと)公はその力で他国を抑え続けていた家柄だった。 その三男としてお生まれになられた殿は父君から厳格に育てられた聡明な御方で、その放つ空気は16の若人にはない圧倒的なものだった。 ただ何となく城に来た俺の目を覚まさせてくれたのも、そうした殿の空気だったんだ。 「お主が今日から小姓として儂に仕える者か。名を何と申す?」 「ははっ、柊弦次郎と申します。何卒よろしくお願い致します……」 俺の半分くらいしか生きていないのに、その氷の様に冷たく研ぎ澄まされた眼差しは生まれながらの高貴な御方という印象を与える。 白い肌にすっと通った鼻筋。 黒目の少ない切れ長の眼。 肌よりほんのり紅い薄い唇。 立ち上がったその御姿は小柄で細く、男としてはとても華奢に見えた。 「……小姓というから年端もいかない者が来るかと思っていたが、とんだ思い違いだったな」 「……はぁ……」 俺の顔を一瞬だけ見ると、殿は溜息をつかれる。 「もう良い。下がって屋敷の掃除をせよ」 「ははっ……」 あの溜息にはどんな意味があったのだろう。 俺が30を過ぎた男だったからだろうか。

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