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第5話『突然の無茶振り』

小姓になって3年が過ぎた頃、俺はようやく殿に小言を言われる事のない日々を過ごせるようになった。 「正に石の上にも3年……だな」 そして。 殿は俺にようやくほんの少しだけ心を寄せてくださるようになられた。 「お恥ずかしい限りで」 その証として、俺は殿と一緒に食事をさせて頂けるようになっていたりする。 「そう言えば、お前の家臣に剣の腕が立つ者がいるそうだが」 俺の淹れた茶を無表情で啜った後、殿は仰った。 最近、俺を『お前』と呼ぶようになったのも、親しみを込めての事……であるといいのだが。 「あぁ、秀太郎の事でしょう。それが何か?」 「儂の剣の相手をして欲しいのだ。指南役は儂に遠慮して手を抜き、何の醍醐味も無い。お前の家臣ならそのような事も無さそうだ」 「はぁ……」 この御方は俺が遠慮のない存在だと言いたいのだろうか。 確かにこの3年、本意ではないにせよ遠慮なく失敗ばかりしてきた。 「弦次郎、明朝、その秀太郎とやらを連れて儂の元に来い。いいな」 良いのだろうか。 秀太郎は義父君の治朋様の御命を狙った事のある男だが。 「殿、お待ち下さい。ひとつお伺いしたい事が」 「何だ」 俺は正直に秀太郎の身の上話をした。 それに対し、殿は顔色ひとつ変えず、 「それがどうした」 とあっさり仰ったんだ。 「気にならぬのですか?」 「過ぎた事などどうでも良い。今はお前の家臣なのであろう?ならば問題なかろう」 その懐の深さに、俺はやはりこの御方は違うと強く感じた。

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