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第6話『秀太郎の過去』
「私が若殿さまの剣のお相手を……?」
「あぁ、急で悪いが明朝に稽古をつけて欲しいそうだ」
屋敷に帰り、先に戻っていた秀太郎に先刻の話をする。
「……かつてお殿さまに刃を向けようとしたこの私でよろしいのでしょうか……」
「俺も気になって聞いたんだが、今は俺の家臣であるなら何の問題もないそうだ」
「…………」
不安そうに俯く秀太郎にこう言うと、秀太郎は顔を上げ、その大きな瞳で俺を見た。
「承知致しました。弦次郎さまの家臣としての務め、必ず果たしてみせます」
「おう、頼んだぜ」
その眼は、俺の説得に応じてくれた時のものによく似ていた。
殿に直参を許されない身分だった秀太郎が実家の窮状を直接訴える為に参加していた城主暗殺計画。
商人から多額の借金をし、奉行所に取り次いでもらおうとしても門前払いされ、追い込まれた末での事だった。
幼いきょうだいの未来の為に自らの命を捧げようとした秀太郎の描いた、誰もが等しく暮らせる世界。
俺もそんな世界があるなら見てみたいと思った。
『その世界を見るまで、お前は死んじゃならねぇよ。どうだ?俺の家臣になってとりあえずもう少し生きてみねぇか?』
『…………』
『俺んとこに来たらお前の衣食住は保障するし少しだがちゃんと給金もやる。お前が死んだらその幼子たちを誰が守るんだい?』
『……このような賊にあたたかい言葉を掛けて頂き、有り難き限りです。この命、貴方様にお預け致します……』
俺の問いかけに、暫く俯いていた秀太郎が顔を上げ、大きな瞳でまっすぐに俺を見た。
あの時、参加した者の全てを救う事が出来なかったのは今でも悔やまれるが、彼等に十分な給金を与えず私腹を肥やしていた者を見つけて処罰する事は出来た。
そして、秀太郎の実家もなんとか持ち直し、きょうだいたちも無事すくすくと育っていった。
誰もが等しく暮らせる世界。
国同士で土地を奪い合い、身分によって自由が制限されている限り、そんな世界を見る事は難しいのかもしれない。
だが、俺は若い頃から身分に関係なく城下の人々と交流し、多くの時間を共有する中で、そうした想いを持つ者たちが数多いる事を知っている。
……あの御方なら、そうした世界をこの国に作って下さるかもしれない。
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