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第10話『夜伽のご命令』
どこで間違えたんだろう。
きっと、この御方の温もりを知ってしまってからだ。
『この身体が女で穢れる前に、お前が儂を穢すのだ、弦次郎』
雷がまだ時折聞こえる中、殿は俺の腕の中でそんなとんでもない事を言い放った。
「殿、本当に良いのですか?」
「何度も言わせるな」
そう仰る顔には赤みがさしている。
「かつて、小姓とは主の夜伽もしたのだから何の問題もない」
「まぁ……そうですが……」
「……今宵はお前を屋敷に帰さぬ……」
不意に殿の方から俺に口付けてこられて、俺は心底驚かされた。
「……何故俺なんですか?」
一番気になった事を尋ねてみる。
「お前は経験があるだけでなく、傍にいると心地が良い。城の誰もが儂を他所から来たという目で見るが、お前は決してその様な事はない。飾らぬありのままで儂に接してくれる。……それでは答えにならぬか?」
「い、いえ。むしろもったいなきお言葉でございます……」
殿は淡々と仰られたが、その頬は少し赤みを帯び、愛らしく見えた。
が、女との行為は数多あっても、男の相手はこれが初めてだ。
果たして殿のご期待にお応えできるのだろうか。
「殿、夜伽をするのは構いませんが、準備を怠ると殿がお辛い思いをされるかと思います故、その時間を与えて頂きたいのですが」
準備……というよりは覚悟を決める時間が欲しかった。
「……良かろう。風呂と夕餉の後、少し時間を与える」
……って、あんまりねぇよ。
そう言いたかったが、言える雰囲気では当然なく。
風邪を引かぬよう風呂でしっかり温まり、夕餉を済ませると、俺は一旦秀太郎を迎えに行き、お住いを後にした。
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