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第15話『叶う事のなかった願い』
お世継ぎの為にと頑張った殿だったが、3年過ぎても5年過ぎてもお子に恵まれる事はなかった。
その跳ね返りは全て俺の所に来て、殿が女子と一夜を過ごした翌日は必ず俺が夜伽の相手として一夜を過ごす羽目になり、俺の存在は城内で一際目立つようになっていた。
そんな殿だったが、国の統一という夢の為に積極的に帝や他国と交流され、俺も殿の使者としてその交渉にあたる事も増えてきた。
帝を中心とした国の統一。
殿は各国の代表者を帝の下に集め、それぞれ屋敷を用意してもらい、御所で合議する事によって国の政策等を決めていく方針を進めていかれた。
殿ご自身も帝の御所近くに屋敷を建て、俺と秀太郎もそこで共に暮らすようになっていた。
だが、こうした動きに不満を持つ国もあった。
それは殿のご実家、神凪家が統治する国だった。
今まで他国を抑えてきた神凪家にとって、その他国と協力してやっていく事など有り得ないという考えだった故の事だった。
それでも殿は城主である兄上様に粘り強く国の統一を訴え続けていた。
「異国への視察団の人選は無事に進んでいる様だ」
殿の小姓になって十余年。
小姓という肩書きではあるものの、俺は実質的には家老に匹敵するくらい、殿にとって最も近い家臣になっていた。
殿は数年前から異国の文化に倣い、丁髷をやめられたものの、相も変わらずお美しいまま、むしろ年齢を重ねた事によって色気のある御方になられていた。
「それは良き事ですね。身分にとらわれず有能な者をという殿のお気持ちが伝わって」
「あぁ。吉次を始めとする異国と貿易をしている商人たちのお陰だ」
そう仰ると、殿は俺の傍に寄り添ってこられる。
「お前と儂の描く世界があと少しで見られるだろう。兄上も当初は難色を示しておられたが、異国からの協力もあって理解して下さるようになられた」
「異国の者たちも貿易の利益をより増やしたいのでしょう。その為の拠点を各地に設けるという殿のご英断、真に感服致しました」
「何もかも、お前の力があっての事だ、弦次郎」
俺の胸に顔を寄せ、殿は瞳を閉じられた。
「……まだご執務中なのでは?」
「うるさい、少し休むだけだ」
「俺は寝床か何かですかい」
「静かにしろ」
「……はいはい」
短くされた髪を整えるのは引き続き俺の仕事になっていた。
そのさらさらの髪を撫で、華奢な身体を抱き締める度、俺はこの御方の一番傍にいられる事を嬉しく、誇らしく思った。
俺も今年で45。
あと何年生きられるか分からねぇが、1日も長く、殿のお傍にいたい。
そんな願いも、殿のご実家である神凪家の家臣たちにより絶たれた。
殿のお考えに不信感を募らせていた彼等は俺が殿を唆していると思い、他国へ交渉に向かいその帰り道だった俺を襲ったのだ。
秀太郎がいたものの、相手の人数が勝っていたため俺は斬られ、屋敷まで後一歩のところで動けなくなっていた。
「弦次郎さま!!」
どこからか秀太郎の声だけが聞こえてくる。
無事なのか、それとも……。
「弦次郎!!」
そこに聞こえる、殿の御声。
死にたくねぇ。
俺はまだ、あの御方の傍にいてぇんだ。
俺とあの御方の夢が叶うまで、死んでたまるか。
けど、俺は殿の傍で夢が叶うその瞬間を見る事なく、命を終えてしまった……。
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