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第16話『終幕』

「私の……私の責任にございます。どうか、どうか死なせてください」 負傷しながらも弦次郎さまを斬った輩たちを始末した私は、泣きながら切腹を願い出た。 「……ならぬ」 弦次郎さまの亡骸のお傍に寄り添ったまま、お殿さまは仰る。 「お主が死んで何になる?弦次郎が救ってくれた生命を粗末にするな!」 「お殿さま……」 感情を露にされたお殿さまを、この時私は初めて目の当たりにした。 「お主が儂より先に逝くなど断じて許さぬ。弦次郎が見たかった新しき世界、お主が弦次郎の代わりに見よ、秀太郎」 涙も流さず毅然としたご様子のお殿さま。 そんなお殿さまを包むように抱き締めておられる、穏やかなお顔をした弦次郎さまのお姿を私は見た気がした。 『お前の想いに応える事は出来ねぇ。俺にとってお前はたったひとりの家族なんだ』 お殿さまがお住いを移される時、私は一度だけでいいから一夜を過ごしたいと弦次郎さまにお願いした事があった。 けれど、弦次郎さまはこう仰り、抱きついた私の身体を引き離した。 弦次郎さまの全てはお殿さまのものなのだと、私はこの時思い知らされた。 弦次郎さま亡き後、私はお殿さまの護衛として20余年お仕えさせて頂いた。 お殿さまは国の統一を成し遂げられ、国が安定すると弦次郎さまのご実家の方をお世継ぎとして養子に迎え、隠居された。 私はその際もお殿さまのお傍にお仕えさせて頂き、共に弦次郎さまを弔う日々を過ごした。 「もう思い残す事はない。後は弦次郎の元に逝くだけだ」 お殿さまは隠居と同時に剃髪され、弦次郎さまが亡くなられた時にお召しだった小袖で作った小さな袋にお骨の一部を入れ、肌身離さず持ち歩いておられた。 私もお殿さまのご配慮により同じものを持たせて頂いていた。 「ですがお殿さま、若殿様はお殿さまのお力をまだ必要とされていらっしゃると存じ上げますが」 「秀太郎、何度も言っておるだろう。儂はもう殿様ではない」 「申し訳ございません。ですが、貴方様のお名前をお呼びになられるのは弦次郎さまだけではないかと……」 弦次郎さま。 貴方様をお慕い申し上げながらも、私は貴方様を憎んできました。 何故私に一時でも心を許して下さらなかったのか。 何故ずっとお傍にいた私よりお殿さまを愛されたのか。 愛おしいと想えば想うほど、同じかそれ以上に憎いという感情が沸き起こってくるのです。 「……弦次郎もお主のように儂を殿と呼び続けているように思う。あれはそういう男だろう……」 時々見えてしまう、弦次郎さまの幻影。 私ではなく、お殿さまを愛おしげに見つめ、笑っておられるお姿。 私にはあのように笑って下さる事はなかった。

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