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次の週末

大木の実家で咲子とたくさん話した翌週末、円は大木の家に来ていた。 部屋に入るなり、大木は円をベッドに押し倒して、ぐりぐりと胸に顔を埋めて甘えてきた。 「知成くん、落ちつきなよ」 円はやれやれといった調子で、大木をなだめた。 「だってえ、円さん、久しぶりに会ったかと思ったら、咲子と話してばかりいたし……」 大木は「妹の夢を応援しようとは思わないの?」と言った昨日の咲子と同じように、ぷうと頬を膨らませた。 普通、180センチを優に超える男がこんな仕草をすれば引いてしまうところだが、なぜだろう、そんな様子を円は「かわいい」と思ってしまう。 これは「惚れた弱み」というのか、「恋は盲目」というのだろうか。 「うん、ほっといて悪かったよ」 円は微笑ましい気持ちになり、大木の重たい頭をわしゃわしゃ撫でてやった。 「……円さん!」 大木が整った顔を近づけてきて、円の唇を塞いだ。 「んんっ…」 大木が円の手首を掴んで、シーツに縫い付けるように押さえ込み、意味ありげに体を擦り付けてきた。 「円さんが本社に異動してから、なかなか会えなかったから、寂しかったんですよ俺……」 今にも泣きそうな顔で、大木がじっと円の目を見つめてくる。 この目に見つめられると、どうにも弱い。 「そっか、悪かったね。今日はたくさんヤろうか」 円は大木のうなじに手を回した。 「もちろん!あっ……」 大木がふと、何か思い出したような顔をする。 「どうしたの?」 「ねえ、円さん。俺、円さんのお母さんに改めて挨拶したいんです」 急に真剣な顔になった大木が、円の目をジッと見つめてくる。 「もう挨拶したじゃない。何を今さら…」 円は映画館からの帰り道で母と出くわした日のことを思い出していた。 大木は礼儀正しく、しっかり挨拶していたのに、母親はまともに受け取っていなかったのが、円には恥ずかしく感じられた。 円は、母親のそういうところも尊敬できないのだ。 「あれは、偶然会って、軽く自己紹介しただけです。今度は面と向かってきちんと挨拶したいんです!番になったんだし、それの報告もしたほうがいいと思うので。それに、円さんはうちに来てちゃんと挨拶してくれたのに、俺は何もしないなんて身勝手ですし……」 「そうかなあ」 その程度のことで身勝手だなんて、円は微塵も思っていない。 おそらく、母親だって同じ気持ちだろう。 あの母親が、息子の番になった男が挨拶をしにこないからといって憤慨する様子など、まるで想像がつかない。 しかし、真面目な大木のことだ。 挨拶なんてしなくてもいい、なんて言っても、きっと聞かないだろう。 「そうですよ。それに、結婚はしてないとはいえ、番になったことは報告した方がいいと思うし」 円に覆いかぶさったまま、大木が手をぎゅっと握ってきた。 「それもそうかな…あ、そうだ!」 円はふと、別なことを思い出した。 「どうしたんですか?」 「あ、あのさ、母さんの他にも、その、会って欲しい人がいるんだけど、いいかな?」 円が大木の手を握り返して懇願してきた。 いつもは気怠げな恋人が、目と目を合わせて、ジッと見据えてくる様子は真剣そのものだ。 その神妙な面持ちから、大木は「会って欲しい人」が円にとって特別な存在であることが手に取るようにわかった。 「ええ、構いませんよ」 大木はにこりと笑って了承した。 「そう、じゃあ、いつ会うか決めよう。でも、その前に、早くシよう?ボク、もう我慢できないし……」 円は大木の耳元で艶っぽく囁いた。 「もう!円さんたら!!」 すっかり劣情を煽られた大木は、円の唇をもう一度塞いだ。 それから、恋人たちは時間も忘れて夢中で愛し合い、甘いひとときを過ごした。

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