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ありったけ
「篠崎…」
「ぁ、ん…♡ん、ん…♡」
ひくりと腰を震わせる。今夜もまた寂しがりな狐は狼に体を委ねていた。
「いいか、動くぞ」
「ん、うん…」
くちゅ…とゆっくり抽送を始めると肩に置かれた篠崎の手に力が入る。
「力抜いとけ。入っていかねえ」
「は、ぅ…はぁ……」
ふー、と息を吐き受け入れる。己の中を熱い肉棒が押し進むのが分かる。寂しさを忘れようとそれに意識を集中した。
こつん、と奥に当たる。いつもの感覚。安堵と、微かに愛しさを感じてしまって頭を振った。
(愛してなんか…ない)
そう言い聞かせて感覚を尖らせる。
ぐるりと中をかき混ぜて動くそれのせいで気持ちがいいそこを刺激されてびくりと体が揺れた。
「ぁ、ん…っ♡」
意図して刺激した通りに喘ぐ篠崎を貫きながら、漢三は彼を愛しく思った。幾度となく重ねた体のおかげで、大抵のところは分かる。良いところ、痛いところ、そして触れてほしくない心、とか。
「ぁ、は……っ…漢三…♡」
微笑んで手を伸ばされる。俺の名前を呼ぶ時、篠崎はいつも。他の人には向けない顔をしている。誰よりも特別に、俺だけに。
でも、篠崎は素直になってくれない。
…分かってしまう。だって顔に出ているんだ。俺のことをどう思ってるのか。
泣きそうなほど涙を溜めて、精一杯微笑んで、苦しそうに俺の名前を呼ぶ。どうして素直に言ってくれないのかは分からない。どうして…何故。
ぼろ、と涙が溢れた。
「篠崎、好きだ。好きだよ」
「漢三…?」
ぐ、と奥歯を噛み締めて笑う。
「好きだ。篠崎。」
「…」
ふ、と眉をハの字に曲げて篠崎が微笑む。
「漢三の泣き虫。」
「お前に言われたくねえよ。さみしがり。」
額にキスを落として抱きしめた。
どうしたってこの愛には応えてくれないのなら。ありったけ、愛してやる。忘れられないくらい、好きだと伝えてやる。それくらいしか…俺にはできない。それでも。それでもお前は、愛を求める。俺の愛じゃ、ダメなのかな。俺じゃ、お前の力には、隣を歩くには…足りないんだろうか。
「篠崎。好きだよ。」
「…ありがとう」
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