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たとえ嫌われていたとしても……。(1)
†
「うわああああっ!!」
『狼に殺される!』
そう確信した時、宝は飛び起きた。
「あれ?」
しかし、宝の視界の先には恐ろしい狼はおらず、針葉樹林もない。カーテンの隙間から漏れる緩やかな陽光。耳を澄ませば小鳥たちがさえずり、朝を知らせていた。
それはどこにでもある穏やかな朝の光景。
宝は、額から流れる一筋の汗を手の甲で拭い、荒い息を整える。
早鐘のように繰り返す心臓は徐々に治まり、元の規則正しい鼓動に戻りはじめる。
鏡に写った自分は悲壮感を漂わせていた。
身長は百七十六センチと背はあるものの、身体はまったくと言っていいほど筋肉がほとんどつかず、細身で、しかも肩まで伸びた髪は色素が薄く、他の人よりもずっと色白で病弱に見えるのに、それに加えて寝覚めの悪い夢を見たおかげで真っ青だ。
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