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たとえ嫌われていたとしても……。(2)

 これでは夢で見た狼よりも今の自分の方がよっぽど怖い。  幽霊のような今の自分の姿に、宝は苦笑した。  ――それにしても、あの狼はいったい何なのだろうか。  夢自体は殺されそうになる恐ろしい夢なのに、なぜか宝はあの狼が怖いとは思わなかった。  澄んだブルームーンの瞳に、艶やかな漆黒の毛並み。雄々しいその姿はとても神秘的で美しい。  ここへ来てからというもの、宝はこうして夜毎、決まって夢を見る。狼に追いかけられ、そして自分が殺される夢を――。  しかも喉元を噛みつかれる寸前のところで目を覚ますのだ。  ひょっとすると、これは何かのよくない暗示だろうか。  ――考えすぎだ。ただ見知らぬ土地での暮らしに慣れていないだけだろう。不安な気持ちが夢に現れているのかもしれない。宝は自分に言い聞かせ、小さく首を振った。

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