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たとえ嫌われていたとしても……。(3)

 なにせ宝がいるここは、暮らし慣れた都会ではなく、緑生い茂る山の中なのだ。  そもそも、宝がここへ来た理由は、仕事先であるIT企業の出張が原因だった。  会社から言い渡された宝の任務は、顧客を増やすことにある。  宝の勤務会社はそこそこ名の知れた大手で、だから余計に顧客を必要とする。  山奥は回線などが通っていないと思われがちだが、実はそうではない。こういう場所にこそ、新規の顧客を取りやすい。会社はそこに目を付けたのだった。  しかしながら入社して二年。まだまだ未熟な宝がなぜこのような重要な立場にいるのかというと、それは宝自らが立候補したからに他ならない。  立候補した理由はただひとつ。  宝が好きな人が、このプロジェクトリーダーに任命されたからだ。  彼の名は椎名 丞(しいな たすく)。宝よりも二歳年上の彼は二十七歳にして社長からも期待されている人物だ。

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