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椎名さんが心配です。(5)

「えっ?」  突然声をかけられ、宝の心臓が跳ねる。  かけられた声の方へ視線をやれば、赤いルージュを引いた唇が弧を描いている。ふんわりと微笑む阿佐見はまるで、宝の心を見透かしているようだった。  彼女は、口では丞のことを悪く言っているが、しかしリーダーとしての立場をきちんとわかってやっている。それに部下の宝も気にかけてくれる、とても心優しい女性なのだ。 「宝ちゃん、お料理得意なんでしょう? あいつ、意外と食には煩いから作ってやってほしいのよ」  それは願ってもみない、丞と二人きりになるチャンスだ。けれど自分が行っても丞はけっして喜ばないだろう。 「でもっ!」  行きたいけれど行けない。  宝が口を開くと、阿佐見は両手を合わせた。 「お願い! ほら、あんな奴でもわたしたちのリーダーだし、彼に何かあったら困るでしょう? 様子を見てきてほしいのよ」  見舞いに行ってもいいのだろうか。

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