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異変。(1)
†
斯 くして、仕事が終わったその足で丞の家に寄ることにした宝はひとり、すっかり暗くなった夜の中を歩いていた。
時刻は午後七時過ぎ。ほんの数分までは綺麗な満天の星空が見えていたと思ったのに、山の天気は変わりやすい。頭上に広がる藍色の空は薄い雲に覆われ、ぽつり、ぽつりと小雨が降り出している。
丞の家は宝同様。やはりオフィスからそこまで離れてはいない。ただ宝の家と違うのは、道路沿いではなく、斜面を降りた小川の近くで、木々ばかりが目立つ場所だった。
街灯のひとつもないここは、まるで人目をはばかるようなその位置にあるのように思える。
降り出した小雨が、枝枝の葉に触れる。
寂寂 とした、うら寂しげなその奥から聞こえるのは、雨音とどこからか聞こえてくる獣の遠吠えのみだ。
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