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異変。(3)

 ただでさえ近くに小川があるおかげで、足場の土は少々水気を含んでいるというのに、降り出した小雨で足場がぬかるんでいる。  途切れた雲の間から見え隠れするのは満ちた月だ。今日の月はどこか青みを帯びている。ここへ来てから夜毎見続けている夢に見る狼の瞳のようだと、宝は思った。  ぬかるみに足を取られながらもいくらか進んで行くと、手入れされている様子がない広い庭と針葉樹を隔てた開き門扉が宝の前に立ち塞がった。  門付近にはインターホンが見当たらない。  このような人目を避けた場所に家を構えているからなのか、不用心にも錠さえも見当たらず、宝が扉を押してみると、きいきいと軋んだ音を立てながら抵抗なく開いていく……。 「えっと、失礼します」  誰に言うでもなく、ぽつりとそう告げて、まるで森の延長線上にあるような広い庭を横切る。

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