31 / 96

異変。(6)

 バルコニーへと続く窓は開いていて、そこから侵入する風が淡い蝋燭の炎を揺らす。  それでも室内は薄暗い。蝋燭の炎では灯しきれない。  部屋の奥は闇に包まれていた。  彼はいったいどこにいるのだろうか。  宝が電気を点けようと壁に手を伸ばしたその時だ。 「点けるな!!」  丞は声を張り上げ、宝を制した。 「椎名さん?」  目を凝らし、視界を巡らせると、見えたのは蝋燭の炎を避けるようにして部屋の隅で(うずくま)っている人影だ。 「椎名さんですか? 椎名さん大丈夫ですか?」  宝は慌てて丞に駆け寄ると、しかし彼は差し伸べた宝の腕を弾いた。 「俺に構わず帰れ!!」 「そんなに苦しそうにしているのに帰れません!!」  なぜ、彼はこういう時にすらも自分を邪険に扱うのだろうか。それほどまでに自分は嫌われているのか。

ともだちにシェアしよう!