32 / 96

異変。(6)

 そう思えば思うほど、宝の胸が痛み、苦しむ。  そうこうしている間にも、丞の息が少しずつ上がってきている。それに触れた彼の身体は熱かった。  ひょっとして熱があるのではないか。  宝は悲しみに打ちひしがれる自分の感情を押しやり、丞を側にあるベッドへと寝かせようとふたたび手を伸ばす。  すると丞の様子がどうもおかしいことに気がついた。  丸まっていた脊椎(せきつい)がゆっくりと反れていったかと思うと、上下に揺れはじめる。  それに丞の苦しげな低い声が獣のそれへと変わっていくようではないか……。 「椎名さん?」 (これって……)  彼の身に、いったい何が起こっているというのか。  恐怖心が宝の心を徐々に覆っていく。  その時だ。窓から侵入した風が蝋燭の炎を掻き消した。  室内に闇が現れる。  そうかと思ったら、雷鳴が大地を揺らし、稲光によって夜の景色が浮かび上がった。

ともだちにシェアしよう!