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丞の正体。(3)

 宝は田牧のみぞおちに拳を入れ、気絶させる。  狼が倒れているだろうそこを見やれば、しかし狼はそこにおらず、もぬけの殻だった。  どうやら彼は開放されていた窓からバルコニーを抜け、逃げたらしい。  おそらくは田牧が放った弾が命中したのだろう。狼がいたであろうそこには鮮血らしき液体で濡れている。  ……宝の全身から血の気が引いていく。  このままの状態だと彼は死んでしまうかもしれない。  宝の脳裏に、目を閉ざし、それっきり動かなくなった丞の姿が過ぎる。 (そんなの嫌だ!!)  先ほど彼に殺されそうになった事も忘れ、宝は急ぎ階段を駆け下り、丞の屋敷を出ると後を追った。  先を急ぐ宝の足は、今もなお振り続けている小雨のおかげでぬかるみに捕らわれる。  足下には彼が流したものだろう、赤黒い血液が散っている。 「椎名さん! 椎名さん、どこにいるの?」

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