37 / 96
丞の正体。(4)
息を乱し、不安定な足場で何度も転びそうになりながら、それでも大地に滴り落ちている血液を追って先を進めば、やがて視界が開けた。
天井を張り巡らすように存在した木々の枝枝はそこになく、ぽっかりと空いた藍色の空から満月が見える。
ここは動物たちの水飲み場だろうか、湖が広がっていた。
月光が水面を照らす。
幻想的なこの光景は、今のこの状況でなければうっとりと眺めていたいところだが今はそれどころではない。丞の一大事なのだ。
宝は目を細め、深手を負った狼を探す。すると一際目立った大きな樹木――そこに、傷を負った一際大きな銀色の狼が横たわるようにして倒れているのを発見した。
「椎名さん、椎名さん!!」
彼が受けた傷は宝が想像していたよりもずっと深い。
右の前足からはだくだくと血液が流れていた。
ともだちにシェアしよう!