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夜明け。(3)

 ここへ来て、宝は初めて見る引き締まった丞の裸体に目を奪われた。  象牙色の肌に端正な顔立ちの彼は、まるで彫刻のように整っている。  宝は、横たわる美しい彼に今一度触れたくなるその欲望を振り払い、彼の身体に毛布を掛けてやると(きびす)を返した。  急ぎ、部屋を後にする。  ……大好きだった。  丞はいつも自信たっぷりで、妥協はしない。自分にはない大人の余裕を感じさせた丞のことが――。  そんな彼の隣にいるだけで、自分も強くなれる気がした。  今でも好きには変わりない。けれどこの恋はけっして実ることはない。  彼に抱かれたのは、ただ目の前に欲望のはけ口があっただけ。  ただそれだけのことだ。 「っひ……」  けっして報われることのない恋。  だけど、せめてもう少しだけ……。  彼を想い続ける宝の唇から漏れるのは、しゃくりと嗚咽。それだけだ。  昨日の夜から降っていた小雨はもう止んでいる。  けれど宝の頬は濡れていた。

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