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目覚め。(5)
こんな訳のわからない奴に抱かれたのだ。罵 ってもいい筈だ。しかし、彼は何も言わないどころか、自分が目覚める前に家に帰っている。
「まあ、宝ちゃんだもんな。『言わない』んじゃなくて『言えねぇ』のかもな」
「それはどういう意味だ?」
眉根を寄せ、訊ねる丞に、智也は口を歪めて笑う。
「そんなの知ってるけど誰が教えるか。自分で訊けよ」
「…………」
『言わない』のではなく、『言えない』その真意はつまり、それだけ自分を嫌っているということだろうか。
ウェアウルフという化け物の自分を――。
そう思い知れば胸が痛む。
こうなることが判っていたから、宝とはあまり話をしないよう心がけていた。
だから丞は日頃から宝を遠ざけ、極力近づかないよう過ごしていた。
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