67 / 96

胸の痛み。(1)

 † 「枇々木、話があるんだが……」  煮え切らない言い方は、いつもの丞らしくない。だから話の内容は宝が思っていたものと同じだと確信した。 「少し、いいか?」  いいわけがない。丞との話し合いなんて望んではいない。  そう言いたいが、おそらく、彼は一昨日の一件で自分の家を訪問したに違いない。  この件をいつまでも先延ばしにしても事態は変わらない。  宝は小さく頷くと後ずさり、玄関のドアから遠ざかった。  丞はやや控え目に玄関の敷居を跨ぐ。   「昨夜のことなんだが……。一昨日の金曜の夜、見舞いに来てくれただろう?」  宝はその問いにもやはり頷くだけだ。視線は俯けたまま、丞を見ない。いや、見られないというのが正しいだろう。たとえ彼が人間ではないと知っても、宝にとって、彼はとても眩しい存在なのだ。

ともだちにシェアしよう!