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胸の痛み。(1)
†
「枇々木、話があるんだが……」
煮え切らない言い方は、いつもの丞らしくない。だから話の内容は宝が思っていたものと同じだと確信した。
「少し、いいか?」
いいわけがない。丞との話し合いなんて望んではいない。
そう言いたいが、おそらく、彼は一昨日の一件で自分の家を訪問したに違いない。
この件をいつまでも先延ばしにしても事態は変わらない。
宝は小さく頷くと後ずさり、玄関のドアから遠ざかった。
丞はやや控え目に玄関の敷居を跨ぐ。
「昨夜のことなんだが……。一昨日の金曜の夜、見舞いに来てくれただろう?」
宝はその問いにもやはり頷くだけだ。視線は俯けたまま、丞を見ない。いや、見られないというのが正しいだろう。たとえ彼が人間ではないと知っても、宝にとって、彼はとても眩しい存在なのだ。
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