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胸の痛み。(3)
彼の用件はこれで終わった。
だからまた、自分は寝室に戻り、思う存分泣くことができる。
宝は目を伏せ、やがて丞が去っていくだろうことを想像していると――けれど彼は一向に帰る気配がない。
これはいったいどういうことなのか。
彼はまだ、自分に何か訊ねたい事があるのだろうか。
「…………」
しばらくの沈黙が続いた中、薄い唇が開いた。
「いや、そのことは別にいいんだ。それで懐抱してくれた時のことなんだが……」
ああ、そう来たか。
宝の唇が引き結ばれる。
満月の日は魔力が高まる。そして月が頭上を照らすその頃、自分は丞の側にいた。
彼は恐らく、自分が宝に何かよくないことをしでかしたと思っているのだろう。
現に、宝の目は泣き腫らし、声もしゃがれている。これは隠しようのない事実だ。
相手がどんなに嫌いな人間でも、それでも真摯に向き合う。
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