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秘恋。(3)

 これは嘘だ。  彼はきっと哀れみを抱いているだけだ。  だってこれを鵜呑(うの)みにして、もし同情だったなら、とても悲しい。  自分は丞に愛されていないことを知った時に感じるのは絶望だけだ。  宝は丞の言葉を信じないよう、首を振る。 「嘘だ。だって俺といる時、椎名さんはいつも不機嫌で……」  そうだ。丞は自分がいる前ではにこりとも笑わない。ただ煩わしそうに眉を潜め、深い皺を作っていた。  だから彼は自分を嫌っている。自分を好きだなんて嘘に決まっている。 「それは、君が!! 眩しいほどの可愛い笑顔で田牧さんと笑い合っていたから……」 「えっ?」  思ってもみなかった言葉に、宝はもう耳を疑うしかない。  宝は口をあんぐりと開けたまま、動けない。  放心状態になってしまう。  けれどそれは仕方のないこと。だってそれだけ、丞という存在が宝の胸の中を占めているのだから……。

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