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犬 3
男は俺を抱きしめていた。
甘えるように身体を擦り付けられ、たまに機嫌良く喉奥で唸っている。
デカい獣、いや、犬にじゃれつかれているみたいだ。
この男は俺が布団に入っていいと言って以来、俺を抱きしめて眠るのが何より好きなのだ。
恐らくセックスよりも大事なのだ。
だいたい、この男はセックスがしたいだけなら、別に俺でなくてもいいのだ。
この男なら女でも男でも、綺麗で可愛いのをいくらでも思いのままに出来ただろうし、そうしてきたのは間違いない。
それをかんがえたらムカつくけどな。
でも、俺みたいにどこをとっても普通の大学生をわざわざ抱く必要なんかないのだ。
でも、この男には俺じゃないとダメなのだ。
そこは正直ちょっとクる。
大体この男はセックスをするために俺を抱いているのではない。
俺を気持ちよくするためだけに「男とセックスする方法」をマスターしてきて、俺を気持ち良く幸せにするためにセックスしているのだ。
これを本気でやるのがこの男で、俺と出会うまで男を抱こうとも思ったことがなかったらしい。
出会って俺と再会する半年の間に、俺のためだけに男は【男の抱き方】をマスターしてきたのだ。
オレのためだけに。
これがガチだという・・・わけのわからない男なのだ。コイツは。
もう1年位前になるのか。
俺はたまたま山を走るバスでこの男と同じバスに乗り合わせた。
明らかにカタギじゃないと思った。
顔にまで墨をいれているのは彫り師でもない限りはカタギじゃない。
てか、カタギは無理だろ。
なぜあんな田舎にこの男がいたのか今だに謎だし、聞くのが怖いから聞いてない。
とにかく山の中で土砂崩れがおこり、バスが岩に潰されて生き残ったのは俺と男だけだった。
漏れた燃料に火がつく中で、挟まって動けなくなっていた男を俺は助け出した。
そしてケガした男を担いで山を降りたのだ。
大変だったが、まあ、この男を助けたというよりは、見捨てる勇気がなかっただけだ。
その結果がコレだ。
何故か男は感謝を余裕で通り越し、何故か俺に惚れ込んでしまったのだ。
「オレはお前のものだ」
と返品を認めてくれない宣言が助けた次の日に行われた。
そして半年後、再び現れた男は勝手に1人暮らしの俺の家に入りこみ、出ていかなかったのだ。
この男には鍵も意味がなかった。
ここからの過程が自分でも里海出来ない。
俺はなぜだかなんだか流されてしまって、コイツにエロいことをされるのを受け入れてしまって。
気持ち良かったんだよ。
仕方ないだろ、なんの経験もないから、イカされまくってつい。
快楽に弱い自分が憎い。
本気で嫌がると止めるし、最後まではされないからいいか、とか思ってしまったとかして。
出ていかないから仕方なしに一緒に暮らしていたら、つい情が湧いてしまって。
慣れない家事を頑張るし、俺のつくった飯を本当に喜んで食べるし。
俺が好きで好きでたまらないのがわかるし。
めちゃくちゃセックス上手いし。
親友の内藤にその流されやすさはどうかと思うとか、色々怒られたんだけど、でも、まあ、肌を合わせたり、この男を怒鳴ったり叱ったりしているうちに。
とうとう正式にお付き合いすることになりました。
なんでこうなったのかがね、本当にね、自分でもわかんないんだけどね。
そして俺はとうとう童貞を失う前に処女を失ってしまいました。
でもね、コイツの「好き」に胡座をかいて気持ちよくなってるのは男としてどうなのかと。
責任をとらないと。
とおもってしまったわけで。
いや、名前もおしえて貰ってないんですけどね。
コイツが「オレの名前は知らない方がお前のためだ」とか真顔で言うし。
コイツは間違いなく、カタギじゃなかっただろうし。
俺と暮らすために、いろんなものを片付けてきたらしいんだけど。
何をどう片付けてきたのかもわからないしね。
でも、まあ。
付き合うと決めたのなら真剣に付き合うと俺は腹を括ったわけです。
名前も年齢もわからない、巨体の半身に焼かれているようなタトゥーをいれた男が俺の伴侶です。
コイツがはなれるつもりがないので、多分、一生の伴侶になると思う。
自分でも言ってて頭が痛くなってきた。
でも、可愛い。
可愛ところが、あるんだよ。
こればかりは飼って、おっと違う、一緒に暮らしてみたいとわからないとこがね。
それ以上に困っているけどな。
でも、俺へのストーカーはやめさせた。
俺の盗聴、スマホパソコンへのハッキング、ドローンでの追跡などももう止める約束をしたし、基 本俺の言うことは聞いてくれるので、もう大丈夫だと思う。
家族にこの男をどう紹介するかとか、色々考えることはまだあるが、とりあえずはまあ、目標は卒業と卒業した後の進路だ。
「オレのものはお前のものだ」
と男がいくらでも金をだしてくるんだけど、俺はヒモじゃない。
そんな金を受け取る訳にはいかないだろ。
まあ、食費としてはちょっと多すぎる金を受け取ってしまってるけど。
そこはまあ。
でもちゃんと男に飯作って喰わせてるし!!
男は慣れないなりに、家事を頑張ってくれているのだが、料理だけはどうにもひどくて。
俺は男がつくった謎の物体を食べて倒れたからな。
俺は食堂の息子だ。
作るのは好きだし、俺がつくる飯は美味い。
食事は俺が作っている。
男は俺が作る飯が何より好きなのだ。
毎日、腹をへらしている男がいる家に帰るのは、俺の与える餌しか食べなかった俺の犬を思いだして、なんか懐かしい。
犬と男を一緒にするのはどうかと思うが、本人が、俺の犬を羨ましがっているんだから仕方ない。
俺の犬になりたいんだそうだ。
なんだよ、それ。
でも、俺を抱きしめて、機嫌よく唸っている男は。
デカい犬みたいで、可愛いと思ってしまうのだ。
俺を抱きしめて笑ってる男は、無邪気で。
実は顔が整っていて、実はとても若くて。
俺のそんなに変わらない年齢なんじゃないかと思わせる。
だが、年齢も何もかもが秘密なのだ。
その理由は俺のためだとこの男が言うならそれは本当なんだろう。
「今度の週末は自転車じゃねぇんだろ」
男は聞いてくる。
俺の趣味は自転車でロングライド、そう遠くへ行くことなのだ。
親友の内藤と自転車でよく週末走りにいってる。
でも毎週というわけではない。
今週末は予定はなかった。
ああ、つまり。
「ホテル行こうぜ、ヤリまくろうぜ」
男はいつでも直球だ。
この壁の薄い長屋では男と心行くまでヤれないのだ。
挿れない抜きあいが精一杯だ。
それ以上になると俺が声を我慢できない。
男は引っ越ししようと言ってるが、俺はここが気に入っているし、俺の身分ではここが相応なのだ。
親に学費は最低限出して貰っているけど、後は自分でなんとかしたい。
1人暮らしのおじいちゃんが死んで、長く発見されなかったこの長屋の俺の家は、二階まであるし、小さな2話まであるのに家賃は格安なのだ。
1部屋のアパートより安い。
それに年寄りばかり住んでるこの長屋、そして、この町内で、俺は本当に孫みたいに可愛がられていて、俺はここらのじいちゃんばあちゃん達がすっかり好きになってしまっていたのだ。
じいちゃんばあちゃん達は俺が男と住んでるのは知ってるし、どうやったんだが知らないが、男はすっかりじいちゃんばあちゃん達を懐柔してた。
外人さんだから、顔に刺青がはいってるんだね。
きっと外国ではこれが普通なんだろう(偏見です)
怖そうに見えるけど、悪い1人じゃないね。(間違いなくヤバイ男です)
じいちゃんばあちゃん達はなんとか男を受け入れてしまっていた。
男は俺に愛されるためになら、周りから固めることを知っていて、金にあかせてじいちゃんばあちゃん達がに取り入っていたのだ。
じいちゃんばあちゃん達は俺の友達として、男を受け入れている。
友達、ではないんだが。
でも俺だって性生活までは公開できない。
ここは本当に壁が薄いのだ。
壁越しに隣のばあちゃんと話をしてるくらいに。
だから。
男と心行くまでヤる時は。
ホテルに泊まってしてる。
そう。
俺だって。
イカされ続けたら、怖くなるし、男がすることは気持ち良すぎてどこまで先があるのか怯えるけど。
セックスしたい。
この男としたいのだ。
でも、毎日は無理。
本当にアタマおかしくなるから。
「結腸抜いてやる、お前が失禁して、おかしくなるまでしてやる」
低くバリトンで、囁かれたら腹の奥が疼いてしまった。
結腸抜くって何?
こわい、けど、したい。
期待してたっちゃった。
男は低く笑った。
そして唇をキスで塞いで声を殺しくれて、俺をその手で、イかせてくれたのだった。
でかい男の手は熱くて気持ち良くて。
男の口の中で喘ぎ声をこぼす。
震えてイク身体を男はしっかりと抱きしめてくれる。
「可愛いぜ。たまんねぇな。週末は腹の奥までぶち込んでやるからな」
男に優しくささやかれ、また抱きしめられる。
「全部中に出して、オレでいっぱいにしてやる」
男の声は甘くて。
俺は幸せなまま、男に抱かれて眠ってしまった。
この日はまだ。
平和な日常だった。
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