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犬 4

「どうしたの、機嫌がいいね」 親友の内藤が言った。 バレてる。 そんなに顔に出てる? 俺は週末お泊まりエッチを楽しみにしすぎたのだ。 今日は木曜日。 金曜の夜からから土曜日まで、ホテルでトコトンすることになっていて。 それが楽しみで仕方ないのが顔に出てたらしい。 だって俺も男だからね。 エロいことだいすきだからね、俺はね。| 「・・・言わなくていいよ」 エロイ話が苦手な内藤に、先に言われる。 悪い内藤・・・、俺はただのドスケベなんだ。 潔癖な内藤とは違うのだ。 内藤はちなみに欲しいモノは絶対に手に入れる猛禽類のような女の子に異常にモテる男だが、本人は潔癖だし、そういう女の子は嫌いなので逃げ回っている。 好みのタイプの大人しい女の子には内気すぎて声をかけられないという可哀想な親友なのだ。 そして肉食にモテるのは女子に限らなかったらしく、内藤には今では男のストーカーもいる。 男の唯一の過去との繋がり。 詐欺師で無免許医の「ドクター」が内藤に惚れ込んでいるのだ。 前に俺の身内の事件の解決に男に無理やり俺の手助けをするように命令されて、俺の手伝いをしてくれた時に、すっかり内藤にドクターが惚れ込んでしまって、今ではコイツも内藤のストーカーの1人だ。 男に俺が言ったから、非合法なストーキングはしていないようだが、ドクターは内藤に嫌われながらも周りをウロウロしている。 俺が現在ドクターを黙認してるのは、内藤のストーカーをドクターが退治しているとわかったからだ。 そして、内藤はマジでタチの悪いストーカー達に良く狙われていたこともわかった。 少なくともドクターは質のいいストーカーなので、悪質なストーカーを潰させるには丁度いい。 毒を持って毒を制すだ。 男がいる限り、内藤にドクターが手をだすことはないからこその黙認だ。 しかし、内藤。 お前なんなの? ドクターが内藤の家の近所で、目を釣り上げながら刃物を持った女を吊し上げてたり、スモークを貼った車の窓をバットで割って中から人を引きずりだしているようなのをみるのは1度2度ではないのだ。 ストーカーホイホイなのである。 内藤は。 可哀想すぎる。 本人だけは何も知らないという・・・。 内藤は弁当を食べ終わると、バックパックからノートを取りだした。 俺がバイトで休んた講義のノートを貸してくれるのである。 弁当の礼だと内藤は言うか、そんなのなくても貸してくれる男なのだ。 内藤は義理堅い。 ありがたくノートを借りる。 内藤のノートは綺麗で分かりやすいのだ。 「お前には。彼がいいのかも知れないね。お前はかれから逃げないし、彼ならお前を諦めないだろう」 内藤が考えこみながら言った。 内藤は男について何か言葉にすることはほとんどなかったが、好きではないのは分かってる。 だが、嫌いでもないのだろう、こう言うなら。 内藤は良く良く考えてからじゃないと言わないタイプで、内藤が何かを言う時はとても大事なことなのだ。 「彼をちゃんと選ぶんだよ。選んぶんだったら彼だ。そこは間違えたらダメだよ。お前は優しい。誰も彼にも優しい。それはお前の良いとこだ。でも、選ぶんだったら彼だ。間違えちゃだめだ。彼はお前を傷つけないけど、お前は彼を傷つけるかもしれない」 俺があの男を傷つける? 思いもよらなかった。 あの男が傷付くということがよくわからなかった。 だが。 内藤は適当なことを言わない。 内藤は慎重すぎるし、要領も悪いところがあるから成績やそういう分かりやすい形では理解されにくいが、俺が知る誰よりも良く考えている男なのだ。 2秒しか考えない俺とは違う。 だから頷いた。 「分かんねぇけど。選ぶ時があるならアイツを選ぶよ」 俺は内藤に約束した。 あの俺を傷付けるなんてことが出来るとは思えなかったけど、そんなことはしたくなかったからこそ。 内藤は微笑んだ。 内藤は優しい。 良い奴なのだ。 そして、俺はこの内藤の言葉を思い出すことになるのは、もう少し先の話になる。

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