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犬 5
バイトを終わらせて家まで自転車で帰る。
自転車は質実剛健の国内メーカーがつくったロードバイクだ。
俺の趣味であり、宝物であり、俺の自転車便というバイトの足でもある。
荷物を預かって届けるというのが俺の仕事だ。
何もかもがインターネットで繋がっている時代にまだこんなモノがあるのかと思ったけれど、最終的に情報漏れをふせぐのは手渡しなんだそうだ。
速さと街を走れる知識を買われてこの仕事を内藤としてる。
バイクの連中もいるけど、自転車はこの街だけに限れば、バイクより速い。
俺達はどこでも走れるからだ。
俺たちは合法的な運び屋なのだ。
万が一狙われるようなことがあれば、その情報がはいったUSBとかを壊すように俺たちは言われている。
狙うやつとかもいるからだそうだ。
どんな機密を、とか思って最初はビビったんだけど、女の子のキャラクターの絵だったり、どこかの地方新聞のページだったり、届けた先で平然と俺たちの目の前でその届けられた先が情報を開けたりするので、運んでいるモノにそんな価値があるとは思えない。
が、社長によると、その女の子のキャラクターをどこよりも先に自分のものとして発表することが物凄い大金に繋がったり、その地方新聞の一ページからわかることが、他の企業に先んじることになる、のだそうだ。
「情報はね、他の人間には価値がなくても、欲しがる人間にはもの凄い価値を持つんだよ」
と社長。
だからこそのスピードが必要で、だからこその機密なんだそうで。
良くわからないけど、自転車便は必要なんだってことだ。
スピードを要求されるので、結構疲れる。
その分バイト代もいいんだけど。
男に食費というか家賃みたいなのも貰ってるし、これで来期の学費の1部は自分で払えるかな。
俺には妹もいるから、あまり親に学費を出させたくはないのだ。
家に帰って夕食を作らないと。
男が腹を減らしてる。
ニラと生姜とニンニクとひき肉で、作ったハンバーグが冷凍庫に作り置きしてある。
あれを焼く。
そしてじゃがいもをチンして、アンチョビと一緒に潰してポテサラダ。
それから、ワカメを胡麻油で炒めてワカメスープにしてと
最後に冷凍してあるブロッコリーや人参を、を解凍して温野菜のサラダにしようトマトを添えて。
よし!!
俺は美味そうに食べる男のことを考えてなんだか嬉しくなった。
明日は学校が終わったらホテルに直行だしな。
明日に。
そなえないと。
ヤバイ。
穴がキュンキュンしてしまった。
この身体はもう、後ろで基本イクし、男がイけと言わないかぎり射精できない身体にされてるし。
正直、ここまで身体を変えられてしまうと不安でもあるのだが。
だがなってしまったものは仕方ないし、あした男は俺を沢山イカせてくれるだろう。
ヤバい。
またキュンってなった。
今日も最後まではしなくても、男は俺をイカせるんだろう。
風呂で身体を洗ってくれて、しゃぶってくれて。
俺もアイツのでかいのを咥えて・・・。
ずくん、身体が震えて、自分がどれだけあの男に教えこまれているのがにちょっとビビってしまった。
知ってる?
フェラしてもイけるなんて。
俺は知らなかったよ。
あれは相手を気持ち良くさせるもんだと思っていたのに。
今日もまた
「愛してる」
慣れないようにまた男は言うだろう。
その意味がまだわかっていなくても。
自分が俺のモノであることは出来ても、愛してるがわからない男。
その意味が分かるまでそう言えと俺が言ったから、男はそう言うのだ。
ハチミツみたいに甘くなった目で、「オレにはまだこの意味が、わからねぇ」とか言いながら。
わかってなくてもそうなんだよ、俺はまたそう思うのだ。
可愛い。
内藤に言わせたら、あの男を可愛いなどと思うのはこの世界に俺だけらしいく、それは内藤が大嫌いなドクターも同じ意見なのだが、でも可愛いとしか思えない。
自分からキスしてしまうくらい可愛いのだ。
まあ、なんていうか。
流され押し切られ付き合ったとはいえ、俺もすっかりあの男が好きになっているということんだろう。
それは間違いなかった。
俺はなんだか夢見心地だった。
ドガッ
何かが落ちてくるような男が、夜の街角にひびくまでは。
機嫌良くべダルを踏んでいたなら、悲鳴がきこえた。
反対の歩道からだ。
俺は迷わず車のない車道を横切って、反対側の歩道へと自転車を向かわせた。
歩道に女の人が四つん這いになっていて。
悲鳴を上げていた。
女の人は必死で何かをかき集めていて。
女の人の傍らで誰かがもう1人歩道に寝ころんでいた。
女の人はただただ意味のわからない言葉を喚き散らしている。
なんだ?
俺は自転車を降り、歩道に横たえて自転車を置いて、近寄った。
そして、分かったのだ。
歩道の街灯がそれを照らし出していた。
女の人がかき集めているのは飛び散った脳漿だった。
横たわった男の頭が割れてそこからこぼれたものだった。
女の人は男の脳漿を頭の中に戻そうとしていたのだ。
錯乱していたから。
小さなビルの前の歩道だった。
その男がどうして頭がが割れたのかはすぐにわかった。
俺は何かが堕ちたような音を聞いたのをすぐに思い出したから。
飛び降りて。
頭が割れた。
俺は流石にその光景に凍りついた。
女の人は悲しみに泣き叫んでいた。
女の人、いや、女の子だ。
俺と変わらない年頃の。
必死で男を元に戻そうとしていた。
声は言葉ではない言葉だった。
その叫びの意味を俺は知っていた。
犬が死んだ時の。
俺の声だ。
生き返ってくれ、生き返ってくれ、そう叫び続けたあの声だ。
たまらなくなった。
思わず、女の子を抱きしめてしまった。
「死んでる・・・死んでるんだ!!」
さけんでしまった。
女の子は自分の手の中の脳漿を見て、また悲鳴をあげた。
自分がしていることに気付いたのだ。
俺は胸の痛みに耐えながら、110に携帯から電話をした。
片手で女の子を抱きしめたまま。
女の子はぐったりと俺に抱きしめられまま、ただ悲鳴のように泣き続けていた。
警察が来るまで俺は女の子を抱きしめていることにして・・・。
そして、その顔に何かを思い出した。
ちいさな白い顔。
小さな鼻。
つり上がった一重の目。
真っ白な顔にちったソバカス。
濃い化粧で隠されて。
深い悲しみに歪められていても。
そこには変わらないものがあった。
子供だった彼女の。
「ナツ?」
俺は思わず呼んだ。
彼女は悲鳴を止めて、初めて驚いたように俺を見た。
彼女も俺を見て、その傍らに何かをさがそうとした。
探しているものはわかった。
そう。
あの頃の俺の傍らには犬がいたから。
あの頃。
俺の地元、俺の街で。
タバコをくわえた13歳の少女と、犬を連れた13歳の少年。
あの頃の2人はこんなに近くにいるなんて有り得なかった。
大人な醒めた少女の目と、声さえ出ない緊張した少年の目が出会う。
あの夏何度も交わした視線。
言葉などない、視線だけの会話。
俺たちはその瞬間、過去にいたんだ。
「ナツ」
俺はもう一度呼んだ。
あの頃は口に出せなかった名前
こんなあそこから遠く離れた街で。
またお前に会えるなんて。
「 」
彼女が俺の名前を呼んだ。
この声が俺の名前をよぶことを俺はどんなに夢みていただろう。
「ナツ・・・会いたかった」
その言葉は本音だった。
そして彼女は気絶して。
俺は警官達が来るまで彼女を抱きしめていたのだった。
俺は。
初恋の少女に再会した。
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