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犬 8

警察の男への質問はあっという間に終わった。 男は出せと言われた身分証を大人しく渡していたので、俺は一応安心していたのだった。 とりあえず合法的な感じ、少なくとも、そんな感じでこの国にいるのがわかったからだ。 密入国してても驚かない。 男に質問を警官達がしようとした時だ。 急にどこかから、何かしらの命令が下ったのだ。 あまりにも突然に全てが終わったからわかった。 そういうことか、と。 俺が高校の時調子に乗りすぎていた友達が、地元のこわい人達に連れていかれた。 それを取り戻そうとして、俺も捕まって、部屋に閉じ込められた時に似てた。 何処かから電話があって、俺と友達は突然、無事解放されたのだ。 おそらく。 俺の守護者達のコネクションが動いたのだ。 両親か、常連さん達か。 俺は守護を受けた子供だったから。 突然何もなかったようにそこを追い出されたのだ。 「二度とコイツにバカはさせるな、お前が責任を持ってな」 追い出された時、そうとしか言われなかった。 だがそれは警告でもあった。 そして、友だちはそうするだろう。 次などない。 友達は歯をほとんど折られていたし、俺はアバラは折れてたが、それがどれだけの恩寵なのかは良く良くわかっていた。 友達はその日の内に街を出て、今は違う街でなんとかカタギでやっている。 若いけど総入れ歯で。 その頃には犬はいなかったけれど、それでもまだ俺には守護はついていたのだ。 あの街限定だが。 その時と同じ感じで、今回は警察署から追い出された。 どこかから手が延びて、それは男由来のものなのだろう。 だって男は驚きもしてなかった。 返してもらった男の身分証はパスポートで、俺はそれを確かめた。 だって名前も知らないのだ。 国籍はアメリカになっていた、そしてさ 名前はこれ以上ないくらい平凡すぎるなまえだった。 ジョン・スミスくらいの。 「これ、お前の名前?」 俺が聞くと、男は警官達の前で 「偽名だな」 と言ってのけた。 警官達のなんとも言えない顔が気の毒だと思った。 アメリカ人でもないんだろう。 きっと。 とにかく俺と男は家に帰ることにしたのだ。 ドクターが迎えにきていた。 ロードバイクを車輪をはずしてトランクに乗せて、ドクターのレクサスのトランクにのせた。 「あんたが手をまわしたのか?」 俺は男と後部座席に載る。 男はうれしそうに俺を抱きしめてくる。 「オレじゃない。何も聞くな」 無表情にドクターはそれだけを言った。 言えないのだとわかった。 ドクターはいつも、俺に嫌味を言ったり、不機嫌な顔をしているのにそれがない。 だから危険な話なのだと。 軽くウエーブのかかった髪を軽薄そうに後で1本にまとめた、見るからにチャラい運転席のこの男は。 筋金入りの詐欺師で、現役の悪者なのだ。 その男が怯えをみせるなら、聞かない方がいい。 余計なことは知るな。 その必要がない限り。 俺は黙る。 これはルールだ。 生き残るための。 自動車が滑り出した。 と同時に俺のサイクルジャージの下着ていたアンダーシャツの中にデカい手が差し込まれ‧、乳首が摘まれた。 ひん 思わず変な声がした。 身体を持ち上げられた。 男に膝の上に乗せられて、男の手がシャツから下を這い、胸を揉み、乳首を弄りだしていた。 この、バカ。 車の中で何を。 怒鳴ろうとしたら、男が掌で胸を揉みこみながら、乳首を摘まんでゆっくりとまわし始めた。 ビクン ビクン 腰が揺れてしまった。 俺の身体は、もう胸だけでも感じる身体にされてあるのだ。 だが、なんだ、どうした、ドクターがいるのに。 「メスの匂いがする。メスがお前のここにいた」 男が俺の首元を舐めながら臭ってきた。 熱い舌は気持ちいい、そして、胸をいじる指がたまらない。 知ってる? 乳首って弄ってたら男でも感じるし、そこだけで射精できるって。 俺はそうされるまでしらなかったんだよ!!! 知らなかったから、初めてそこでイカされた時、怖すぎて泣いた。 男に時間をかけてそこばっかり弄られて、舐られ吸われて噛まれて。 指でたっぷり弄られて。 とうとう、そこでイってしまった時、オレは本気で泣いた。 自分の身体が怖くて堪らなくて。 泣いてたら、男が雄たけびをあげて狂った。 俺を抱きしめて叫続けてた。 「怖くねぇよ・・・可愛い、ああ可愛い、なんて可愛いんだ!!」 男が吠えまくって喜んでたのは覚えている、が、 なんで今、乳首でイカされそうになってる。 車の中で、突然。 なんでなんで??? それにメスの匂い??? あ、と、思い至った。 俺は自殺現場で叫ぶナツを抱きしめていたんだった。 「メスの匂い」 男は唸って舐めていく。 気に入らない匂いをこそげととるように。 ナツは俺の首筋に顔を押し付け泣いたのだ。 そちら側だった、男が舐めているのは。 また胸を摘まれた。 自分のだと主張するように、 ふおっ くうっ 声が出てしまう。 ダメだ。 腰がゆれちゃう。 「ダメだよ、ソイツに隠し事なんかしたら」 淡々とドクターが言う。 後部座席で起こってることを見ないようをして。 見たら男に怒られるからだ。 「俺をストーキングしてたのか!!」 そういやそうだった。 俺は怒ろうとした。 ストーキングはしない約束だった。 位置情報も、盗聴もだめだと約束した。 「してねぇ」 男は断言した。 そして、匂いがする首筋を丹念に舐めて、耳を噛む。 「メスの髪の匂いだ」 起りながら。 ナツの頭が確かにそこに当たってはいたけど!! 耳を舐められたなら、鳥肌が立つ。 寒気に似たこれは、あまりの快感を肉体が勘違いしたものだってことをもう俺は知ってる。 「帰ってこない飼い主を探して、いつものお前の帰り道をソイツがたどってたら、自殺の現場にお前とメスの臭いがしたんだってさ。で、オレが呼び出された。だから、現場の一番近くの署に行ってみたら、お前の臭いがしたから入るってソイツはあの署に入っていったんだよ」 呆れたようにドクターは言う。 詐欺師がつく嘘にしては酷すぎたので事実だとわかった。 匂い? 俺の匂いを辿ってきたの? 何、お前そんなんできるの? 何それ、怖い、怖いんですけど。 それってマジのストーキング。 獣が獲物を追う意味の!! 「クソメスが!!」 男が唸って、喉を齧りながら、俺の指で挟んだ乳首を擦り合わせていく 痛くて、ギリ気持ちいい。 ギリがたまらない。 噛まれるのも良かった 深くイカされながら噛まれたせいか、俺の身体はソレを気持ちいいと認識してしまうのだ、 待ってこんなのしないで、こんなとこで ヒュウヒュウ喉が鳴ってしまう。 その喉を愛しげにすわれた。 音を立てて。 たまんなくあまい。 腰が揺れて止まらない。 「イケよ」 低く囁かれた。 深いバリトンで。 俺はサイクルジャージにレースパンツのままで。 後部座席で男に膝に乗せられて、胸を弄られただけで。 射精していた。 男の命令通りに、 ひうっ くうっ はぁ 喘いで、腰をガクガク動かして、レースパンツの中に放っていた。 嘘だ。 嘘だ。 言葉だけで? 「メスなんかより、オレだ。オレのが気持ちいい、良くする。メスなんかいらない」 男が繰り返し、射精したばかりの俺のそこをレースパンツの上からもみこんでくる。 「ダメ、・・・やめ・・ああっ」 俺は出したばかりのそこを弄られ泣いてしまう。 「オレだけだ。オレが1番なんだ!!」 男が吠えて、前をレースパンツの上から扱きたて、が乳首を親指で弾いてくる。 マジ、やめ、ああ。 でも、でも、気持ちいい。 喉奥だけで喘いでしまう。 「こうなるからね、正直に言わないとだめだよ。抱かせてやれば落ち着くでしょ。飼い主なら責任とって落ち着かせてね」 平坦な声でドクターは行って、どこかの駐車場に来る前を止めた。 「後はお部屋でしてあげないと、後で飼い主に怒られるのはおまえだぞ。ほら、鍵だ」 ドクターは鍵を投げつけてきた。 それを片手で男が受けとる。 その言葉は男に向けられたものだったのだろう。 男は唸り声で返事をしたから。 そこはどこかのマンションの地下駐車場で。 男はうなりながら俺を肩に担い出車をでていく。 非常階段を俺を担いだまま疾走しているのがわかった。 餌を。 ゆっくり食らうために。 獣が移動しているのだと。 わかった。

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