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犬 11
ナツはかっこよかった。
初めて会ったのは中学校の入学式。
ナツはなんでだか1人だけ制服を着ていなかった。
何故かジャージだった。
だが、先生達も何も言わなかった。
だから目立ってた。
12歳の女の子にしては背が高くて。
痩せてた。
その頃はナツは髪が長くて。
ポニーテールにしてた。
鋭い尖った目が「近づくな」と全ての人間に言っているようだった。
ただ1人ジャージのナツを皆が見ているのに、ナツはその全ての視線を拒絶していた。
超然としていて。
俺の知ってる誰とも違ってて。
かっこいいとか思ってしまったのだ。
だがここは街の中にある中学で。
街のルールが流れ込んでいるような中学だったから。
多少お金がある親なら、ここより、私立の中学に行かせたがる。
地元のこの中学には行かせたがらない、そんな中学だったから。
ナツは初日から絡まれてた。
俺はナツが上級生の女の子達に引っ張れていかれるのを、校門を出て帰る前に見たのだ。
俺は慌ててその後をおう。
ヤバいのだけはわかった。
なんとかしなければ。
ほら、あの子、クラスメートだし!!
だが。
ナツには助けなんか無用だったんだ。
ナツは裏庭で、上級生が威圧しながら何か言う前にその顔面に頭突きしていたのだ。
鼻血を吹き出す顔にさらにパンチ。
引き倒す。
さらに馬乗りになって殴りつける。
おそらく、上級生の女の子達は、囲んで妙に目立ってた一年生を言葉で泣かすくらいのことしか考えていなかったのだろう。
踏んだり蹴ったりくらいは予定していただろう。
だが。自分達が虐めるものが反撃するとは思っていなかったのだ。
5人相手に逆らう女子なんか今までいなかったのだろう。
ナツのなぐり方はサマになっていて、感心してしまった。
ちゃんと肩をヒザで固定してなぐってる。
無機質な目で目標を定めて、ナツはなぐるのを止めようとしない。
女の子達は殴られる女の子の鼻や口から流れる血を見て、ショックを受けて泣き叫ぶ。
虐めるのは平気なのに自分がやられるとダメなのは、男も女も関係ないのか。
俺は思った。
女のいじめっ子には詳しく無かったから。
俺はもうしばらくナツに殴らせてから、止めることにした。
半端はだめだ。
見せつけないと、さらに加害される。
ナツは分かっててやってる。
それがわかった。
リーダーを選んで潰す、徹底的に。
ある程度のイカレ具合を見せつけることが必要だ。
それを見せつけないと、舐められて、ずっと虐められる。
そう、ルールだ。
だから、見計らって止めた。
ナツを羽交い締めにして引き剥がした。
「先生が来る!!」
おれは怒鳴った。
嘘だったが、それでみんな散った。
殴られて泣いていた子も逃げた。
ここにいた誰もが、先生にも、親にも、今日あったことは言わないだろう。
もちろん、俺もナツも。
それも、ルールだ。
俺はナツと一緒に走った。
ナツは速かった。
こんなに脚の早い女の子、知らない。
胸がときめいた。
学校から離れて走るのをナツが止めたから、俺も止めた。
ナツが笑った。
それが俺が見た、最初で最後のナツの笑顔だった。
鋭さが消えて、やわらかさがあった。
でも、俺に笑ったわけじゃないのもわかった。
「ありがと」
ナツはそれだけ言うと、背中をむけてそのまま手を振った。
もう、行くってことだ。
構うなってことだ。
俺は。そのまま、ナツの背中を見つめ続けたのだ。
それが、初恋の始まりだった。
あの時のナツの背中は尖ってて。
誰をも拒否していた。
でも俺はナツをかっこいいと思ったんだ。
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