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犬 12

とくん とくん その音に安心した。 心臓の音だ。 犬を抱いてる時に感じる音。 子供の頃から好きだった。 熱い何かに包まれて。 その音が響くのは心地よかった 髪や背中を優しく撫でるからわかる。 こんなこと俺にするのは1人しかいないから。 俺はその音がする胸に顔を擦り付けた。 可愛い。 可愛い、俺の男に。 「悪ぃ。やりすぎた」 男は素直に謝った。 身体はキレイにされてたし、汚れたシーツも剥がされてた。 「ここは?」 俺は聞く。 「ドクターが仕事で使ってる家の1つだ。場所やいろんなことは忘れろ。覚えていたらめんどくさいことになる」 男が言ったので、俺はすぐに忘れることにした。 「可愛いかった、可愛かった」 男が惚けたように繰返すから、俺は真っ赤になる。 俺を抱きたいと思ったり、可愛いなんて言うのはお前くらいだし、お前のが可愛い。 「イキ狂って、叫びまくって、締め付けて蠢いて、すげぇ良かった、すげぇよ、おまえのケツマ・・・」 男はとんでもなく卑猥なことを言いかけたが、口を噤んだ。 止めることを学んだようだ。 言ったら殴るという躾は効くようだ。 でも、声枯れてるし、乱れまくった自覚はある。 こうなるから、家じゃできないんだよ!! 「可愛いぜ。たまんねぇ、可愛すぎるぜ」 男は俺の頭に顔をこすりつけてくる。 俺は際限なくイッたけど、コイツ2回しかイってないんじゃないのか? 俺が落ちた後に出したと思うけど。 そこは申しわけなくおもう。 コイツが俺を最優先しているのは知ってるが、俺だってコイツに気持ちよくなって欲しいんだ。 「悪い、俺飛んじまって・・・おまえ、2回しかイケなかったんじゃ・・・」 謝るけど、男が何故か半笑いだ なにかをしでかした犬に似てた。 起き上がって、男を問い詰めようとしたら、身体が動かない。 何より、ケツが死んでる。 いや、確かに久々だったし、今まで1番深いとこまで挿れられたけど、実質1回だぞ? 最初のはすぐに出したから。 それくらいで。 、 男とする時は朝までずっとやり続けているのに。 そうじゃないとこんなにはならない・・・ そこで気付く。 「このバカ!!俺が気を失ってもやり続けたんだな!!」 俺はどなった。 男がぐずぐず小さい声で何か言い始めた。 クンクンキュンキュン鳴いても許さねえ!! コイツ、俺が気を失ってもやり続けてたんだ。 揺さぶりつづけ、出し続けてたんだな!! 「可愛いかったんだ、可愛いすぎたんだ!!」 抱き締めながら言われた。 いつもなら、殴って怒るんだが、 だが。 だが。 今回はナツのこともあったしな、 不安にさせた俺も悪いか。 ドクターの言う通りだ。 こればかりは。 ちゃんと言えば、納得はしないし、面倒にはなっても、男を不安にはさせなかったわけだし。 この男は俺を止めないのだ。 俺がどこでどんな女を抱いても、止める権利は自分にはないと思っている。 だから、自分の方が女より「いい」ことを証明しようとするのだ。 「愛」がわからないから。 自分は俺のモノだと思っているが、俺は自分のモノだと思っていないのだ。 所有しかしらない。 所有するか捨てるしか。 「愛」がわからないから。 嫉妬の意味も本当には分かってないだろう。 この男は。 誰よりも子どもなのだ。 愛することも望むことも知らない。 所有と欲望しかわからない子供。 「今回ばかりは許してやるよ」 俺はため息をついて、男の頭を撫でてやった。 男は嬉しそうに目を細めた。 首筋に鼻をこすりつけられた。 可愛いと思ってるから俺も俺だ。 そこで、ハッと思い出した。 「内藤!!内藤に連絡してない!!」 内藤は男に夕飯を食べさせに家に来てくれてたはずだ。 何かあった時のために、内藤には鍵を渡してあるのだ。 家に入って、男がいないと連絡してくれて。 そこから連絡してない!! 内藤が心配している!! 内藤のことだから、俺の家で、俺と男が帰ってくるのを律義に待ってるはずだ。 「ドクターがちゃんと内藤に伝えておくと言ってたぞ」 男が言ったので、はね起きた。 けど、下半身が死んでるのでしずむ。 「それ、1番ダメなヤツだろ!!」 俺は叫んだ。 内藤のストーカーであるドクターはウキウキしながら俺の家に向かったはずだ。 内藤がいる、俺の家に。 内藤のピンチじゃないか!!! だからドクターはこの部屋を男に貸したのだ。 邪魔者の俺たちを追い払い、内藤と2人きりになるために。 騙したことにさえ気付かさせないという、凄腕の詐欺師と内藤を2人きりにするなんて!!! 俺はもがくが、身体にちからが入らなくて起き上がれない。 内藤、内藤・・・無事か!!! 俺はあわてまくる。 「心配いらねーよ」 男は笑った。 男はベッドの上でタバコを吸い始めた。 ベッドサイドの高そうなガラスのオブジェを灰皿にして。 ドクターの部屋で、ドクターのオブジェだからいいか。 いやいやそんなのどうでもいい。 「なんで大丈夫なんて言えるんだ!!」 俺は怒鳴る。 帰らなければ。 服、服、俺の服。 だが脱ぎ捨てられたレースパンツは精液でドロドロ。 パンツも、ないのにどうすんだ!!! 焦りまくるが、服がないと内藤のもとにたどり着く前に逮捕される!! 「心配ねぇよ。だからドクターをそのまま行かせてったんだ。アイツもヤる気だったろうがな」 男は喉奥で笑った。 やけに自信たっぷりだ。 何をヤる気だったんだドクター? あぶねえよ!! だが、確かに男は。 内藤を死ぬほど嫌ってはいてもドクターからは守ってきた。 「あの野郎はヘタレだ。だからこそ、一流の詐欺師なんだぜ?だが、ヘタレはヘタレだ。、・・・帰ろうぜ、面白いもんがみれるぞ」 男は自分の服を拾って着ながら言った。 「俺の服がない!!おまえがあんなことするから!!」 俺は怒る。 「ドクターのクローゼットからなにか見繕ってやるよ何かたべるか?」 聞かれたが、首を振る。 とにかく、帰らないと。 大丈夫か? 内藤!!!

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