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初恋 1

ナツと言葉を交わしたことはない。 俺はただ、ナツを見つめるだけで。 ナツは入学してすぐ学校に来なくなった。 不思議な位ナツの噂を聞かなかったのは、ナツが中学に入学する前に転校してきたからだ。 ナツが学校に来ていた理由は、自分を知らしめる為だったんだろう。 ナツは男の上級生さえ、やっつけた。 ナツの戦い方は賢かった。 攻撃される前にやる。 目をつけられたその瞬間に、徹底的に叩きのめす。 ナツの武器はその長い手足だった。 上級生がナツを見る。 気に入らねぇ。 しめるか、そう思う時にはもうナツの長い脚が側頭部に飛んでいる。 ナツはダッシュして飛び込み蹴りを放つからだ。 正当防衛ですらなかった。 傍目からはナツが突然上級生を殴りいったようにしか見えないだろう。 でも、やられた方はわかる。 なんで、分かるんだ? なんで、殴ろうと思ったのがわかるんだ? それは恐怖になる。 やられた以上のダメージを与える。 見えない場所から出て来た蹴りも。 街で出会っても、もうちょっかいをかけてこなくなる。 ナツは街で自分に手を出さないようにするためだけに学校に顔見せだけに来ていたんだと思う。 一通り挨拶を終えると学校には来なくなった。 ナツが制服を着てなかったのは、学校に来るつもりがなかったからだろう。 おそらく。 買ってない。 ナツはやはり何か格闘技をしていた。 空手か何か。 それも半端な技量じゃない。 12歳の女の子にしては相当背が高く、長い手足を武器にする孤高の少女はあまりにかっこよすぎた。 俺がほれちゃうのも仕方ないじゃないか。 学校に来なくなったナツを俺は街で見かけるようにやった。 声をかけられるわけもなく、オレはナツを見るたびにただ、見つめるだけだったんだ。 ナツは特に何かしてるとほ思えなかった。 ブラブラ、行く宛てもなく、街を夜遅くまで歩いていた。 その内、水商売のお姉さん達に何故か可愛がれるようになり、店の手伝いとかしていたみたいだ。 ナツは人を見る目があった。 食いものにしない大人を選んで、ちょっした手伝いをして小遣いを貰ったり、なんなら姉さん達のところに泊まっていたみたいだ。 何故知ってるかと言うと、一緒に夕飯をたべる友達の母さん達も、夜の街で働いていたからだ。 「あまり家に帰りたくない理由があるんだろうって」 友達が母親から聞いたことを言っていた。 胸が痛んだ。 俺の街の大人達が、ナツを放っていたわけではない。 ナツにはナツの理由があり、それを大人達はくんでいたのだ。 ナツは誰より大人だった。 自分で対処しようとしていた。 それが良かったのかわからない。 分からないんだ。 なにが正しいのか分からなくなるこの街の、矛盾そのものだったんだ、ナツは。 俺は街でナツの姿をさがし、街に流れるナツの噂を集めつづけた。 宝物のように。 「まあ、おまえも発情を知ったからな」 とでも言うように、犬は生暖かい目で俺を見ていた。

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