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初恋 3
「犬死んだんだ」
ナツは言った。
「高校の時にね」
俺は答えた。
犬の話から始まったのは当然だ。
街では俺はあの犬の飼い主、だったからだ。
犬のが有名。
俺が学校に行って帰って来るまで犬は家をぬけだして、街をウロウロしていて、勝手に有名になっていた。
クソガキどもを犬はからかって遊んでいたらしい。
生き物をおもちゃとしか考えないような、クソガキどもを逆におもちゃにしていたらしい。
ナツの方がそんな話には詳しかった。
猫を殺して遊んでたガキどもは、犬に一人ずつ襲われたらしい。
噛まれこそしなかったれど、追われて飛び出し車に撥ねられたり、川におちたり、常に追われてノイローゼになったり。
そんなホラーな話。
犬は怪異的な扱いさえ受けていた。
街の怪異の一つ。
夜明けに酔っ払いを異次元に引きずっていく裏通りの妖怪の話と同じで、この話には信ぴょう性はかったが、ナツは信じていたし、俺も犬ならありそうだな、とは思った。
「・・・ごめん。あの時は言えなかったから」
ナツは少し黙ってから言った。
俺は俯く。
胸の痛みは今もある。
ナツが黙って言ってしまったのは。
とても辛かったから。
「いいんだ」
それだけを言った。
俺とナツは歩きながら話していた。
ナツは俺に
「黙っていてくれてありがとう。私のことを言わないでくれて。それが言いたかったんだ」
それだけを言いにきたんだと、立ち去ろうとした。
俺は引き止め、は、しなかったけれど、駅まで送るとついてきたのだ。
ナツはこの前みたいに濃い化粧はしてなくてスッピンで、だから13歳のナツを思い出させた。
「・・・いいんだ」
俺は答えた。
ナツにはまだナツの事情があるのだな、そう思った。
「この大学の学生か?って聞かれてね、アンタがここの学生なのかって思ったんだ」
ナツは言った。
俺との繋がりを確かめたかったから、つい俺の大学名を出してしまったんだろうな。
警察も。
「まさか会えるなんておもわなかった」
ナツは笑った。
ナツが笑ってる。
それだけで胸が痛い。
俺もだ。
まさかお前に会えるなんて。
「あの死んだ人」
俺は聞いてみた。
「恋人だった。でも、自殺じゃない」
ナツは言い切った。
スゴい目をして。
真っ直ぐに上級生に突進して打ちのめす、あのときの目だ。
「ナツ・・・」
俺は言いかけて、ナツはそれを視線で止める。
「アンタは関係ない。もう傷つけたくない。あのときのことで一つだけ悪いと思ってるなら、それはアンタを傷つけたこと、今でも苦しくなる、だから何も気にしないでほしい」
ナツは言った。
ナツと俺の場所は今も昔も違うのか。
俺は黙った。
もう、駅についていた。
ナツは笑って手を振った。
ナツは笑える。
今は笑ってる。
それならいい。
俺は自分に言い聞かせた。
ナツは背をむけて駅に向かう。
またナツは消えてしまうのだ。
俺の中の13歳の少年が泣いた。
ずっと泣いてる。
俺の中の13歳のナツが笑わないように。
でもいい。
俺たちには今がある。
そう思った時だった。
ものすごい勢いで歩道に車が乗り上げてきた。
悲鳴があがる、何人かは跳ねられるところだった、
急ブレーキ。
タイヤが鳴る。
スポーツタイプの改造車だ。
ドアが開き、若い男達が2人飛び出してきた。
ナツを囲む。
ナツは構えた。
返り討ちにする気だ。
俺は警察に電話するかを焦る。
ナツと警察は相性が悪い。
ナツの加勢、いや、足でまといになるか?
でも。
撃たれた。
連中は撃ちやがった。
なんで銃なんてもってんだ???
ナツの肩から血が吹き出す。
俺が駆け寄る前に、倒れたナツを連中は車に連れ込む。
そして車は再び走り出す。
ならば。
俺は追うしかなかった。
自転車で。
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