20 / 118
初恋 4
車の向かう方角。
信号や流れから考えて、向かうのはこの市から出るデカい鉄橋だと予測した。
俺はこの街中を自転車で走り回っているのだ。
自転車便として。
地図も信号も建物から何から何まで頭に入っていて、そして俺は、この街で走るということに関してはバイクにも負けない。
7分、7分だ。
その勝負になる。
ショートカットだ!!
俺は自転車でしか通れない道を猛スピードで駆け抜ける。
絶対に橋に車より先につく。
橋だと予測した理由はもう一つある。
ガラを拐うにゃ、人数少なすぎるだろ。
拐うんだったら、それなりの人数は用意するもんだ。
しかもナツは腕が立つのに。
常識だろ。
2人だと?
違う。
拐いにきたんじゃない。
殺しに来て、殺しそこなったんだ。
生きててもらったら困るんだ。
車の中では殺さない。
後始末が大変になりすぎる。
全身血まみれになるし。
橋で、も一度撃って、橋から落とす。
確実に死ぬ。
そして立ち去る。
そのつもりだ。
確信があった。
あったからこそ、先に着かないといけなかった。
ナツを。
殺させてたまるか!!
時計を見る。
5分経過、いける。
上がり坂になってる橋をかけあがった。
自転車を置いて、車道にとびだす。
ポケットの中のそれを握りしめた。
まさかコレを俺の街以外で使うことがあるとは。
それもこういう形とは考えていなかった。
アーチ型になった橋の中央に立ち、俺は車道を見下ろした。
車はここを上がってくる。
坂道の上から下を見下ろすように、俺は立っていた。
信号の加減でまだ車はこない。
だが、改造車特有のエンジン音がした。
来た。
そして猛スピードで上がってくる自動車が見えた。
俺はその車の行く先に立っている。
このままでは車に俺はぶつかるだろう。
運転手してんのは止まってくれるような善人じゃない、殺しに来てるんだから。
だから、俺は思い切り手にしたそれを、こちらに向かって上がってくる車の窓ガラスに投げつけた。
投げたのはライターだ。
金属製の。
ミシッ
音とともに、フロントガラスの窓ガラスが粉々に飛び散る。
思ったとおりだ。
年代物のスポーツカーだ。
一部の改造車好きの連中が好む車種の。
最近の車より、弄りがいがあるのだ。
だが、この年代の車の窓ガラスは、衝撃に粉々に割れるように設計されている。
綺麗な粒に分散され、割れたガラスに切られることがないようになっているのだ。
元暴走族夫婦の息子の知識なめんなよ!!
だから、俺が坂の上から投げてたライターは走るスピードの力も借りて、窓ガラスを粉々に飛び散らせた。
そのため、一瞬うしなった視界のため、思わず運転手はブレーキをふむ。
俺はスピードの落ちた車のボンネットに自分から乗って綺麗に転がる。
当たり屋のテクニックだ。
俺の実家の食堂で、当たり屋していた人に教えてもららったのだ。
当たり屋は度胸だと。
俺はな、度胸だけはあるんだよ!!
回れた。
俺はなんとか、車に跳ねられるのを回避して、車道に転がったし、異様な車が走っているのに怯えたのか、後続車はいなかったから、撥ねられなくてすんだ。
よし、ラッキー!!
運だけでやってるのは自覚してるからな。
タバコも吸わない俺が何故、ライターを持ち歩いているというと、なんかあった時に手にライターを握って殴ったら威力が増すからだ。
ナイフなんか持ち歩けないだろ。
ライターなら警察に何も言われない。
試してみるといい。
素手で殴るのと攻撃力がぜんぜん違うから。
内藤に前、説明したら、良いとこの子である内藤にはつめたい目で見られたけどな。
止まった車から、ナツが飛び出してきた。
さすがだ。
チャンスは逃さない。
肩から血をだしてるけど。
俺はナツに駆け寄った。
「無茶して!!あんたを巻き込みたくないって言っただろ」
ナツが怒鳴った。
俺は構わず、ナツの耳に囁いた。
ナツは俺の言葉に目を見開いたが、車から飛び出してきた連中を見て走った。
銃を持ってる。
ナツを狙ってる。
ナツは迷わなかった。
橋の上から飛び降りた。
かなりの高さがある橋の上から、深さがどれだけあるのかわからない川にむかって。
銃は一人しか持ってなくて、でも、そいつが下手なのは間違いなくて。
銃声は3発響いたがナツには当たらなくて。
ナツは水の中に吸い込まれていった。
そして、ありがたいことにパトカーのサイレンがしたから、連中は俺を撃たないで逃げてくれた。
運だけでやってる。
分かってる。
運だけだ。
でも。
俺はナツが俺の目の前で死ななくて良かった、そう思ったんだ。
ともだちにシェアしよう!