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初恋 4

車の向かう方角。 信号や流れから考えて、向かうのはこの市から出るデカい鉄橋だと予測した。 俺はこの街中を自転車で走り回っているのだ。 自転車便として。 地図も信号も建物から何から何まで頭に入っていて、そして俺は、この街で走るということに関してはバイクにも負けない。 7分、7分だ。 その勝負になる。 ショートカットだ!! 俺は自転車でしか通れない道を猛スピードで駆け抜ける。 絶対に橋に車より先につく。 橋だと予測した理由はもう一つある。 ガラを拐うにゃ、人数少なすぎるだろ。 拐うんだったら、それなりの人数は用意するもんだ。 しかもナツは腕が立つのに。 常識だろ。 2人だと? 違う。 拐いにきたんじゃない。 殺しに来て、殺しそこなったんだ。 生きててもらったら困るんだ。 車の中では殺さない。 後始末が大変になりすぎる。 全身血まみれになるし。 橋で、も一度撃って、橋から落とす。 確実に死ぬ。 そして立ち去る。 そのつもりだ。 確信があった。 あったからこそ、先に着かないといけなかった。 ナツを。 殺させてたまるか!! 時計を見る。 5分経過、いける。 上がり坂になってる橋をかけあがった。 自転車を置いて、車道にとびだす。 ポケットの中のそれを握りしめた。 まさかコレを俺の街以外で使うことがあるとは。 それもこういう形とは考えていなかった。 アーチ型になった橋の中央に立ち、俺は車道を見下ろした。 車はここを上がってくる。 坂道の上から下を見下ろすように、俺は立っていた。 信号の加減でまだ車はこない。 だが、改造車特有のエンジン音がした。 来た。 そして猛スピードで上がってくる自動車が見えた。 俺はその車の行く先に立っている。 このままでは車に俺はぶつかるだろう。 運転手してんのは止まってくれるような善人じゃない、殺しに来てるんだから。 だから、俺は思い切り手にしたそれを、こちらに向かって上がってくる車の窓ガラスに投げつけた。 投げたのはライターだ。 金属製の。 ミシッ 音とともに、フロントガラスの窓ガラスが粉々に飛び散る。 思ったとおりだ。 年代物のスポーツカーだ。 一部の改造車好きの連中が好む車種の。 最近の車より、弄りがいがあるのだ。 だが、この年代の車の窓ガラスは、衝撃に粉々に割れるように設計されている。 綺麗な粒に分散され、割れたガラスに切られることがないようになっているのだ。 元暴走族夫婦の息子の知識なめんなよ!! だから、俺が坂の上から投げてたライターは走るスピードの力も借りて、窓ガラスを粉々に飛び散らせた。 そのため、一瞬うしなった視界のため、思わず運転手はブレーキをふむ。 俺はスピードの落ちた車のボンネットに自分から乗って綺麗に転がる。 当たり屋のテクニックだ。 俺の実家の食堂で、当たり屋していた人に教えてもららったのだ。 当たり屋は度胸だと。 俺はな、度胸だけはあるんだよ!! 回れた。 俺はなんとか、車に跳ねられるのを回避して、車道に転がったし、異様な車が走っているのに怯えたのか、後続車はいなかったから、撥ねられなくてすんだ。 よし、ラッキー!! 運だけでやってるのは自覚してるからな。 タバコも吸わない俺が何故、ライターを持ち歩いているというと、なんかあった時に手にライターを握って殴ったら威力が増すからだ。 ナイフなんか持ち歩けないだろ。 ライターなら警察に何も言われない。 試してみるといい。 素手で殴るのと攻撃力がぜんぜん違うから。 内藤に前、説明したら、良いとこの子である内藤にはつめたい目で見られたけどな。 止まった車から、ナツが飛び出してきた。 さすがだ。 チャンスは逃さない。 肩から血をだしてるけど。 俺はナツに駆け寄った。 「無茶して!!あんたを巻き込みたくないって言っただろ」 ナツが怒鳴った。 俺は構わず、ナツの耳に囁いた。 ナツは俺の言葉に目を見開いたが、車から飛び出してきた連中を見て走った。 銃を持ってる。 ナツを狙ってる。 ナツは迷わなかった。 橋の上から飛び降りた。 かなりの高さがある橋の上から、深さがどれだけあるのかわからない川にむかって。 銃は一人しか持ってなくて、でも、そいつが下手なのは間違いなくて。 銃声は3発響いたがナツには当たらなくて。 ナツは水の中に吸い込まれていった。 そして、ありがたいことにパトカーのサイレンがしたから、連中は俺を撃たないで逃げてくれた。 運だけでやってる。 分かってる。 運だけだ。 でも。 俺はナツが俺の目の前で死ななくて良かった、そう思ったんだ。

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