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初恋 6

男が俺を欲しがるのを拒むことなんか出来なかった。 怖がらせてしまった。 自分のいないところで、大事な人が死ぬこと程こわいことはない。 俺だって犬が死ぬまでの間、一時でも離れることを拒否した。 知らない間に死なれるなんてたまらなかった。 あの苦痛に似た日々を覚えているから、男には罪悪感しかない。 病院から近いホテルが手配されていたのは、本当に便利屋代わりのドクターで。 ドクターはタクシー代わりにも使われて、ガチギレしていた。 しかも、内藤はドクターが来ると聞いてさっさと帰ってしまったしな。 内藤もいないのなら、ドクターには得など1つもないのだ。 「オレはね、今、億単位の仕事してんの!!簡単に呼び出さないでくれる?」 だけど男が言えばなんでもするのだ。 こわいから。 それにどうせ、ろくでもない仕事なんだから失敗すればいい。 ただ、ドクターの存在は今回は気楽だった。 男や内藤とは違い、ドクターは俺が死んでも顔色一つ変えないのがわかっているので、何一つ罪悪感を感じる必要はないし、それにドクターには頼みが他にもあった。 「はぁ?」 なんでそんな頼みをという顔をしていたが、俺の頼みは男の頼み。 断れるわけがない。 ドクターに何か頼むのは世界で一番気がラクだ。 悪者だから、頼んだことの結果でドクターがどうなろうと俺の知ったことじゃないし。 そしてドクターはキレながら引き受けてくれた。 てか、断れない。 断ったら男に殺されるから。 とにかく俺は俺にしがみついて離れない男を宥めてやらねばならない。 安心させてやらなきゃいけない。 俺は抱かれたまま、ホテルに運ばれる公開処刑にも耐えた。 これは。 これは。 俺がわるい。 マジで。 男は部屋に入っても、俺を降ろそうとはしなかった。 離れたら俺が死んでしまうかのように。 「悪かった。本当に悪かった。怖かったんだな、すまない」 俺は心から言った。 GPSをつけさせてやろう、とか、血迷う位に俺は反省していた。 安心するならいいじゃないか。 隠しカメラで四六時中撮影されてても。 確実に俺も反省しすぎてやばくなってた。 下手なことを言わなくて良かったと、後で思った。 心臓に手をみちびく。 生きてる俺を実感させるために。 「な?大丈夫だから」 男を見上げた。 「・・・挿れさせてくれ」 男の声は悲痛で。 だから許した。 男はそれでも、なんとか俺の穴を解したし、イカせることを忘れなかった。 でも、服を脱がす手間さえ惜しんで。 うつ伏せにされ、押し込まれた。 乱暴で、感じさせようとはしないそれが愛しかった。 だから、ねじ込まれ、苦しくても。 感じたのだ。 こんなの、もうテクニックじゃない。 だから、いい。 欲しがり、俺にしがみつきたい、この男が俺に助けを求めてるんなら、それがいい。 それをおしえてやりたくて、自分から腰を振った。 男を締め付け、絞って欲しがった。 お前のだ。 全部お前のだ。 それを教えてやりたかった。 「置いていかないでくれ」 生きてることを確かめるためだけに突かれた。 体温と血液と鼓動。 皮膚、内臓、呼吸。 快感、苦痛、小さな死さえセックスにはあるから。 激しい突き上げに俺は叫ぶ。 うぉおぉあアアァァ ひぐぅぅぅぅう 欲しがられることは。 たまらない充足だった。 返してやりたい。 返してやりたいんだ。 こんなに、こんなに。 満ち足りたなにかをおまえにこそ。 「殺してぇよ。殺したらオレだけのモンになるなら。でも違う違うんだ。お前だけは違うんだ。オレはおまえのモンに、なりてぇんだ、オレはそうじゃなきゃ嫌なんだ」 男は怒鳴った。 低い、深い声が、響く。 声は皮膚さえ震わせて。 俺はまだ触られてもいない乳首を立てて、身体を痙攣させて声にイク。 でもさらに、構うことなく、深く、強く突かれる。 ぉあうあああ ひぎぃいいいい 俺はただ、叫ぶ。 性器から精液じゃないものを噴き出しながら。 「置いていかないでくれ!!」 男は懇願した。 深く深く俺を抉り、刺し殺しながら。 白目を剥いて、痙攣しながら、俺はこの言葉を聞くのが2回目だと思った。 初めて男に会った日。 挟まっていた男を救い出し、助けを呼んでくる、と男を置いて山を降りようとした時。 この男はそう言ったのだ。 「置いていかないでくれ」と。 もしかしたら。 もしかしたら。 あれはこの男が生まれて初めて求めた助けだったのかもしれない。 そして、俺が置いて行かなかったから。 誰もが男を置いていったのか? 誰一人助けなかったのか? だから、自分で自分を燃やしてまで生きていたのか? 「置いて、いかない」 俺はそれだけを言った。 涎たらして、脚ガクガクにして言うセリフじゃ、アレだけど。 本気だった。 「ちゃんと責任とって連れていく」 俺はその時には脚を肩なかつがれ、丸見えになった穴をぶち犯されている、雌以外の何ものでもない格好だったんだけど。 それでも男として、言った。 死ぬ時は、コイツと一緒だ。 置いていかない。 「俺が、死ぬ時には、お前を殺してやるよ」 男以外には愛とは思えない約束をした。 でも、これが。 男には愛なのだ。 与えてやらないと。 それに。 男は俺がいなくなったなら。 本当に世界を壊すだろう。 俺がいないという理由だけで。 責任はとる。 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ 男が吠えた。 歓喜の声だった。 喜びのために出された。 その熱さに溶ける。 「俺は。お前の。モノだ!!!」 男は叫んだ。 そこからは、より深く、より奥を犯し、そこに自分を刻みつけるためだけの、セックスが始まった。 俺は。 セックスにはまだ先があったことを、知り、ひたすら泣いた。 そんな奥でそんなこと。 もひとつある奥の穴。 そこが蠢いていた。 そこを丹念に愛され、そこに出された。 ぃぃいいいいい ひぃいいい 脱力しながら痙攣するのは、恐ろしかった。 なのに。 無理、無理、無理ってさけぶのに。 死ぬかと思うのに。 良かった。 いや、そんな言葉では伝えられない。 穴もちんぽも脳も溶けたのだ。 まだセックスに先があった、なんて。 なんて。 いつも通り、気絶するまでやられたのだった。 でも。 俺の男は。 可愛いと。 そんなにされてもおもってたから。 末期も、末期なんだろう。

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