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初恋 9
「ナツここまで来たら、巻きこみたくないとか言わないでくれ」
俺はナツに言った。
隠れ家のアパートのすすけた畳の上で俺たちは話あっていた。
男が胡座をかいて、俺はそのうえに乗せられてるんだが、もう座椅子と思うようにしてる。
仕方ない。
男も色々我慢してくれてんのは分かってるから。
ここは。
俺が耐えるとこだ。
・・・いや、そうなの?
耐えなきゃいけないの?
理性が疑問を投げかける。
だが。
拒否する勇気がなかった。
男は背後から俺を抱きしめて、ナツを睨み付けている。
男としてはナツの前で俺を犯してマウントを取りたいぐらいなのだろうが、そうしないので、とても偉い。
・・・いや、えらいのかな?
でも、よしよしと、頭を撫でてやった。
ナツの顔が引き攣っているが、まあ、初恋の女の子の前で犯されるよりははるかにいい。
男は頑張ってくれている、んだ、よね?
「・・・どうせ逃げるあてもないし、頼るあてもないんだろ」
ドクターが言う。
ナツは唇を噛むから、そうなんだろう。
昔も今も。
ナツは一人で闘うのだ。
意外にドクターが乗り気なのは、内藤がもう巻き込まれたからだ。
内藤といれるチャンスのためなら、この男はなんでもするのだ。
おそらく、内藤の衣服の1枚手に入れるためでもなんでもする。
俺の家で洗濯籠に入っていた内藤のパーカー(遊びにきた時忘れていった)を何故か内藤のだと見分けて持って帰ろうとしていた。
俺が指摘して、取り返そうとすると、泣いて土下座して新しいのをなん枚も買うからこれをくれ、と言ってた。
何でもする、金ならいくらでもとまで。
そして、それは。
詐欺師の心からの本物の涙だったんだが、俺はしっかり取り戻した。
当たり前だ。
何につかう気だ。
許すわけないだろが。
俺の親友だぞ。
そう結局、内藤は俺に怒りはしたが、でも、なら自分も参加すると言った。
こうなると内藤は引かない。
「マトモなのはオレだけだろ」
その通りだし。
ナツが巻き込まれてる。
ナツが命を狙われている。
それをなんとかしなければならない。
そのためには理由をきかないといけなかった。
ナツ?
誰に?
何のために追われてる?
「あたしは逃がし屋なんだ。相棒とソレをやってきた。相棒は。殺されたけど」
ナツは諦めて語り始めた。
内藤の側ににじり寄ろうとして、その度に「離れて」と冷たく突き放されるドクターとか、俺の首筋の匂いをずっと嗅いでる男とか、異様な雰囲気にナツも気押されたのだと思う。
こんな色々困惑した表情とかをナツが出来るなんて俺も知らなかったよ。
「逃がし屋?」
俺は聞く。
「客は女の子が多いね。大抵は【男】から逃げる。後は【店】からとか、【借金とり】とかからね。痕跡もなく逃してやるんだ。新しい場所で新しく生きていけるようにね」
ナツは言った。
あたしのように。
とはナツは言わなかったがそういうことなんだろう。
「まあ、今回の仕事は。なんだか最初からおかしかったんだ」
ナツは語り始めた。
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