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初恋 10
思えば最初からおかしかったんだ。
妙な話すぎる、と思ったんだ。
ナツはそう言った。
「逃がしてくれるって聞いた」
そう言って女の子から電話はかかってきた。
仕事はクチコミのみ。
人づてに広がっていく。
「全部捨てれるならね」
ナツはいつも言う
逃げるというのはそういうことだ。
過去を全部切り捨てることだ。
それが出来ないなら、引き受けない。
それが出来ないなら、逃げられないからだ。
過去や人間関係じゃない、今の自分そのものを捨て去れるかだ。
人や人間関係は捨てれても、自分は捨てられない人間は多い。
私は悪くない。私だけ。オレのせいじゃない。なんでオレだけ。私だけ。
そんなモノも捨ててもらう。
出来なかったら途中で放り出す。
助ける価値がないからだ。
どうせ、また何かから逃げる羽目になるのだし。
男に騙されて逃げるような羽目に陥った女の子には、騙されるような自分を捨ててもらわないといけない。
二度は逃げられないからこそ。
この辺はナツはシビアだ。
だけど、何もかもを棄ててでも、ちゃんと生きたいと思っているのなら。
ナツは全力で逃がす。
料金は安くはないが、後払いだったりもする、が。
逃がした客たちは、絶対に払う。
時間はかかっても。
確実に人生が変わったからこそ。
地獄を抜け出したからこそ。
ナツは彼らの運命は本気で逃げようと思ったときから変わったのだとおもっている。
諦めることをやめた時にこそ、変わったのだと。
「全部捨てれるのか?」
そう、そして、電話ではなく話を聞くためにその女の子がナツに会いに来た時に、ナツは女の子に聞いたのだった。
女の子は頷く。
その目は真剣だった
本気だと思ったから引き受けたのだけど。
判断を間違えることなんてなかったのだけど。
それは今までの仕事とは違うモノで、その結果は恐ろしいことになった。
相棒も、その女の子も死ぬという結果に。
「普通なら。そのケースは逃げるほどのものではなかったんだ」
ナツは言った。
その少女は15歳。
黒いコスプレめいたレースの服を着て、大人からは病的に見えるメイクをして、爪にも綺麗なネイルをしてた。
長く家には帰っていない。
明らかな未成年を受けいれる店などもないから、子供たちで通りに座って、酒や咳止め薬、もしくは咳止めクスリをいれた酒などを飲みながら、さわいで、ホテルに泊ったり、飲んだり、クスリを仕入れる金を、少女とセックスしたい男達から貰っていた。
そこに集まる1人の少年が、そんな男たちに上手に算段をつけて、その分抜いて少女に返す。
そんなシステムが出来上がっていた。
もちろん 可愛い男の子でもいい。
売れるなら。
帰りたくない少女達や少年は、自分を売ることも厭わなかった。
それどころか、自分達を売ってる少年に恋すらしていた。
さらに少年に貢ぎさえする。
大好き。
好き。
だって、ここにいていいって言ってくれるし、やさしいし、楽しいし。
こんな話は腐るほどある話で。
ナツにはおどろくことじゃないし、オレにも驚く話じゃない。
まあ、よくある話で。
自分達から食い物にされている以上どうしようもない。
「まあ、気付いた子なら途中で止めて家に帰る。帰らなくても、そこにいるのは止める。そして、もうちょいマシなとこにいくね。気付かない子は行くとこまで行って死ぬか、違う酷いのに飼われて行くとこまで行くね」
だが、逃げるほどのことじゃない。
本人達の意志なのだから。
「そこにいかなきゃいい。帰りたくないなら、自分で他で稼げばいい。出来るだろ?」
ナツはその少女に言った。
15でも大人びているなら年齢を偽れば働ける。
ナツは13歳で大人になった。
ナツはそうしたのだ。
さすがに18とは言えなかったが、親がいる子供のふりして働いたし、非合法な仕事なら、年齢は気にされなかった。
まだ子供の見た目だからこそ、警戒されないことを活かして、情報をさぐって売ったり、運んだりするちょっとした仕事を引き受けるようになった。
目端が利いて、格闘にも長けたナツは重宝されたのだ。
女の見た目も逆に使えた。
家に帰らなくても、生きてはいける。
やり方しだいた。
身体を売る気なら別にそこに行って売らなくても、どこででも売れるし、そこに行かなければいい。
どうしても帰りたくなくて、それでも生きて行きたいなら、逃げなくても大丈夫だ。
借金や暴力で縛られているわけでもないのに。
逃げるほどのことじゃない。
ナツは逃げたい理由を知りたかった。
話を聞けば、両親はそれほど酷い親でもなかった。
確かに色々決めつけたり、そのくせ、放っておいたりもしたが殴ったり怒鳴ったりされていたわけじゃない。
忙しいからかまわないで、そのくせ口だしだけしてくる親が嫌で街に逃げたし、そこで似たような少年少女達に会い、バカ騒ぎや、酒や咳止め薬の楽しさに気付いたわけだ。
親は心配してないわけではなく、メールや電話は出てないだけで、入っている。
身体を売ってることを知れば、それこそ、警察に家出人届けでも出しただろうが、少女のバイトしてるという言葉と友達の家にいるということを、嘘だと思いながらも信じてる。
この程度なら。
帰れる子供だ。
なんなら学校にも戻れる。
むしろ、何事も無かったかのように、普通の世界に帰れる。
今なら。
もう少したてば、帰りたくても帰れなくなってしまうけれど。
そのまま過ごせば、そこで大人になる少女になる。
知ってることは限定されて。
酒と咳止めクスリよりもっと強いクスリででき上がる。
這い上がるのは大変な場所にいることになる。
いたはずの場所にもどるのは難しい
学校に戻るのも。
線を超えてしまうのだ。
「帰れるうちに帰りな。お家がある間に。まだあんたは線を越えちゃいない」
ナツは言った。
ナツは線を越えてしまったから。
帰れないから。
でも、その女の子は泣いた。
帰れるなら帰りたいのだと。
でも、もう無理で、逃げるしかないのだ、と。
「見ちゃったんだ」
少女は震えたながら言った。
少女はナツを情報を得るために、沢山の男のモノを咥えて、腰を振ってたどり着いたのだという。
それは、いつものやり方じゃないから危険なのだ、という。
やさしい彼にお金を渡してない仕事だから。
それは良くないことだった。
その仲間の間では。
自分の為だけに稼ぐなんて。
仲間じゃないだろ?
そういうことなので。
それは危険なことだった。
そうもう彼女も理解していた。
とても危険なことをしてでも、ナツにたどり着いた位、彼女は逼迫していたのだ。
「逃げない限り、離してもらえないの。あそこからは逃げられない」
彼女は真っ青になって言ったのだ。
「死にたくない。生きたい。やり直したい」
少女は震えて、ナツに助けを求めたのだった。
「このままだと殺される」
と。
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