30 / 118

初恋 14

「売った?どういうことだ?」 ナツはカナに聞き返す。 これはナツの手に負えないケースかもしれない。 ナツはあくまでも、個人のケース、法律が通用しないDV男や、法律を無視する店などから女性を逃がしてきたからだ。 シェルターや法律の範囲内では逃がしきれない人間を逃がしてきたからだ。 法律は弱者の味方ではないからだ。 人身売買とかは。 組織が絡んでるなら、ナツではもう難しい。 「家に帰ろうとした!!でも!!」 久しぶりに家に帰ろうとした。 両親に言って、たすけてもらうのだ。 カナは帰った。 帰ったカナの目の前で。 カナの自宅は燃えていた。 その意味は分かった。 そこから逃げ出して。 地味な服を万引きして、目立つ染めた髪も黒に初めて。 街に戻ったのは、他に行き場がなかったからだ。 街でしか生きる方法しか知らない。 帰る場所はもやされていた。 家族の無事を祈るしかなく、帰れば家族が巻き込まれることだけは確かだった。 ユウタは何なのか。 カナは見誤っていたのだ。 助かるために情報を求めた。 カナはバカじゃない。 ユウタはSNSを使ってカナを追ってた。 カナがユウタの金を持ち逃げしたと。 みんなが憤っていた。 ユウタは人気モノなのだ。 セイヤも逃げたことになっていた。 街にいるだけではすぐ見つかってしまう。 カナは絶対に大丈夫なとこに逃げた。 それだけは避けたかったけれど、ユウタと繋がりのない、むしろユウタと繋がっている組織の敵のところに転がり込んだのだ。 ユウタが半グレと言われる連中とも仲良くしているのは知ってた。 そこと友好関係にないとこ。 知ってるヤバそうな客から情報を集めた 舐めて。 しゃぶって、腰を振って。 生き残るために。 たどり着いて、取り敢えず身体を差し出すしかなかった。 だが組織もカナを持て余した。 カナだけのために敵対してしまうのを組織もいやがったのだ。 子供をしゃぶり尽くすのはまぁ良くあることだからだ。 かと言って、カナを大人しく渡すのも嫌だったその組織の幹部は、ナツのことを教えたのだ。 頼んでみろ、と。 厄介払いされた。 そして。 カナはナツのところに来たのだった。 「助けて」 カナはナツに泣きついた。 ナツは。 引き受けてしまったのだ。 見捨てれるものではなかった。 見捨てられるわけがなかった。 助けられたことがあるのなら、助けなければならない。 遠い昔の少年と犬の記憶。 あの少年は。 ナツを助けたのだ。 命懸けで。 「逃がしてやるよ」 ナツは溜息をつきながらそう言ったのだった。 だが。 結局。 たすけてあげられなかったのだけれど。 カナは泣いていた。 泣いていた。 「ユウタは、何?何なの?・・・カナにだって、セイヤにだって。初恋だったのに!!」 少女は。 まだ。 少女でしかなかった。 「初恋の相手が悪魔なら、辛すぎるかもしれないねぇ」 苦い思いでナツは口にする。 あの日の、あの少年も。 恋したことを恨んだだろうか。 ナツにも。 あの少年は初恋だったのだ。 深く傷つけた。 あの日は、ナツが、悪魔だったのだ。

ともだちにシェアしよう!