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悪魔 4

動画は俺の落ち込みとは別に進んでいく。 俺はすかっかりぬるくなったなんか「へぇ」という空気の中で、異様にご機嫌な男の腕の中で項垂れるしかなかったのである。 「オレとするから尻がいいんだよな」 男がそう言ったから殴ったけど、全然気にしてくれないますますご機嫌になってやがる。 俺は気を取り直して動画に集中する。 しかしこの子すごいな。 ずっとイってる。 細い手足が、痩せた胸が、揺れてる尻がずっと痙攣ひている。 だがとうとうその場面が始まった。 ユウタという少年は、犯していた少年を首を締めて殺す。 だが腰だけはいやらしく叩きつけながら。 女の子が撮っていた理由は、多分。 エロかったからだろう。 綺麗な男の子2人の絡みだ。 ・・・結構好きだったんだと思う。 BLが。 女の子の携帯には(「画面の指の跡透かせりゃこんなもんわかるだろが」とナツがなんなくロック解除してしまったので、画面は常に綺麗に拭くことをオススメします)BL漫画がダウンロードしてあったからだ。 「マジか。生きてりゃ色々話も出来てただろうに」 ナツがポロッと言ったのでナツにも疑惑が出てきた。 俺は人を殺す動画を生まれて初めてみた。 おりてくるネオンの光の中で、そのユウタという少年はまるでプレイのように殺人を楽しんでいた。 首を締めることを、セックスのように。 ザワっとした。 楽しんでいる。 本当に楽しんでやがる。 女の子はその顔を撮っていた。 出来るだけ大きく。 その理由は。 女の子も信じられなかったからだろう。 確かめたかったのだ。 現実を そして、記録しなければと思ったんだろう。 そんなことを楽しめるなんて。 綺麗で優しそうに見えた顔が歪んでいた。 喜悦で。 楽しくて仕方ないないのだ。 殺される少年の絶望。 そんな目があるのかと、思う。 信じきっていたのだと聞いた。 色んな物が抜け出していって。 まるでグラスに穴が空いたように。 綺麗なものは命とともにながれだし、恐怖と絶望がその身体を満たしていった。 胸が痛んだ。 この男の子に。 幸せと言えたのはこの少年に与えられた偽りだけだったのだ。 なんて、人生。 ユウタのために身体を売ってなんでもしていたのだと。 与えられていたものが偽物かどうかなんて、愛されて来なかった子どもにはわからない。 本物を知らないから。 殺された少女、カナの話はみじかく要点だけを纏めて ナツに語ったのだ。 そう、カナは。 何度もナツに言ったようにバカじゃなかった。 この動画を最後まで撮りきったとところからもそれがかる。 必要だと。 逃げるよりもそれを選んだのだ。 殺している人間の締め付けを楽しむ変態を俺は初めてみた。 吐きそうになった。 でも内藤がトイレに駆け込んで吐いてるので耐える。 無理。 コイツオカシイ。 「慣れてやがるな」 男が煙草を吸いながらのんびり言う。 この家はドクターの家だから喫煙OK。 「ガチモンの変態だぜ。人を苦しめるのが1番の快楽ってタイプだ。ヤバい稼業に自分から降りてくるタイプだ」 男はどうでもよさそうだったが、一応俺のために言ってみたという感じだった。 「ああ、厄介なタイプだね。こういうのは趣味でやってる悪党だから引き際がない」 ドクターは考えこんでいる。 内藤がいる限り、ドクターはこの作戦から離れないだろう。 「カナって子が殺された時も。コイツはいた。チラリとだけど見たよ」 ナツがギリギリ奥歯を噛み締めながら言う。 怒り狂ってた。 殺す気満タンだけど、殺しはさせない。 絶対。 「多分、殺したかったんだろうな。自分で。わざわざトドメ刺しにきたんだな、それが楽しくて仕方ねぇ、ド変態だぜ」 男は呆れたように言った。 「殺すのが楽しいってそんな・・・」 流石に育ちの悪い俺でもこんな奴はわからない。 街の悪い連中の殺しは楽しみじゃなくて、目的や手段や結果だった。 楽しみで痛めつけても、殺してしまうとしても、殺すことをたのしむために殺すヤツはそうはいないのだ。 流石にそれを楽しむ為ってのは。 俺の知らない世界だよ。 「お前は・・・」 男に言いかけてやめた。 コイツが殺してないわけがない。 こんな暴力そのもののような男が。 でも、聞かなくていいと思ったんだけど。 でも答えたのは男だった。 「楽しんだりはしねぇ。ただの仕事だ」 男は淡々と言った。 でも、その目は緊張していて。 俺は黙って男の頭を撫でた。 逃げない。 俺はお前といるよ。 どうであれ。 男がホッとしたようにため息をついた。 「仕方なく、ならあるよ。一々覚えちゃいない。殺されるなら殺すしね」 ナツもポツリと言った。 俺は頷いた。 知ってる。 「楽しむ奴はいないよ、プロならね。オレ達は地獄に生きてるけどね。割り切ってても、楽しまない。プロほどそうだろ」 ドクターもちょっと見たことのない顔をして言った。 諦めたような笑っているような。 馬鹿にしてはいなかった。 悪党は人間だ。 意外かもしれなけど。 仕事でやっているから悪党なのだ。 人間としての日常がある。 冷酷で知られるヤクザの幹部が子煩悩のパパだったり、親切な隣人であり、通りすがりの親切な人であることは普通にあるのだ。 どこかで怪物である自分と、人間である自分の折り合いをつけなければ、人間である部分まで怪物に喰われて破滅するからだ。 「コイツ、放っておいても破滅するぞ。楽しみで殺してるような奴は歯止めがきかなくなって、自分から転がり落ちていく。何かしらで消える。ほっておけばいい勝手に死ぬさ」 ドクターが断言した。 ああ、そうだな、と俺も思う。 ヤバいと言われて暴力に狂っていた不良達は二十歳までは生きれない。 悪党になるにしても、暴力を制御して手段として扱える人間だけが生き残るのだ。 「それじゃ仇討ちにならないだろ」 ナツが言った。 そうだ。 ナツは仇討ちをしなければならない。 「殺すんだったらあっという間なんだけどよ」 男がブツブツ言う。 「殺しは絶対ダメ」 これだけは約束。 ナツにもそう言い聞かせている。 ナツは俺に借りがある。 だから嫌そうに納得してくれた。 だがどういう結末を? ナツは警察の裁きは望んでないし。 未成年だ。 上手く誤魔化してしまうだろう。 ストリートの少年同士の痴話喧嘩の果ての殺人で終わるだろう。 数年で出てくる 人身売買の証拠もない。 「ドクター、こういう奴はどういうのを1番嫌がる?」 こういうのはドクターの専門分野だ。 喜ばすことはドクターの仕事だ。 その裏でうらぎっているけど。 喜ばすことが出来る奴は、嫌がらせることも出来る。 「自分が罠を作って人を嵌めて絶望させるのが好きだからね、自分が騙されていたってのは許せないだろうね」 ドクターはもう俺の意図がわかってる。 「コイツを嵌める。躍るだけ踊らせて、最後に笑ってやるんだ。そして、売られた子供達がどうなったかの証拠も見つける」 どうするかは考えていかないと。 ユウタという怪物の結末はナツに任せよう。 殺す以外で。 殺された方がマシになるかもしれないけれど。 「嵌めるんだったら内部に入り込まないと行けないぞ。嵌めるにしても情報がいる。だけど、子供ばかりだ。オレたちじゃ近付けない、ガキたちに近付いて情報をとらないと」 ドクターが言った。 ドクターは目立ちすぎるし、ナツは狙われてるから街では動けないし。 あの男じゃ怖がられる。 「ああ、そこは・・・」 俺は考え込む、俺は無理だな。 俺でも不自然だよな。 童顔と言えば童顔だけど、めでたく20も過ぎてるし、さすがに18以下は・・・。 そこへ真青な顔をした内藤が帰ってきた。 よわった内藤はいつもより、幼く見えた。 ん? ん? 「内藤、お前いつも高校生に間違えられるよな」 俺は言った。 「内藤君はダメ!!!」 ドクターが叫んだ。 よく分かってる。 「何?どうしたの?」 内藤が髭一つない綺麗な顔で言った。 「ダメ!!!!」 ドクターは絶叫していたが、これしかない。

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