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悪魔 5
その少年はぼんやりとした光を放っていた。
なんで?
少女はそう思ってしまった。
いつものみんながいく通りに行くつもりだった。
駅のトイレで着替えた、病んだかんじに可愛いワンピースはこの街では浮かない。
少女が住む地本ではさすがに無理だけど。
思い切ったメイクもここでは許される。
いつもの通りへ行くまでの途中で少年を見つけた。
制服姿の少年は目立ってはいた。
ここに制服で来るならそれは意図的だ。
制服を【売り】にするための。
たが、少年の目立ち方は違っていた。
光っている。
いや、正確には彼にだけ目が行くのだ。
人ゴミの中で、途方にくれたように立ち尽くしているその少年に目が行かずにはいられない。
普通の。
いや、本当に普通。
いや、むしろ。
若干ダサい。
本来人目を引くはずがないのだ。
人目を拒否するような地味さがあった。
人間の視線を拒否しようとして、逆に目立ってしまうヲタク達の哀れさとは違った、徹底して平凡な、すこしダサい制服の気崩し仕方。
鞄から靴までありふれていて徹底してダサかった。
光ってさえいなければ、制服姿で多少人目を引いたとしても無視したはずだ。
でも。
光ってる。
少女は近寄らずにはいられなかった。
蛾が明かりに向かうように。
惹き付けらる。
少年の前に立つ。
何故かドキドキしていた。
何?
ユウタの前でもこうはならない。
ユウタへのドキドキは甘い咳止めクスリがくれるあの高揚感に似てた。
ユウタとするセックスみたいに。
脳みそが歪むみたいな。
でも、何?
この人は。
なんかちがう。
少年は、ただ俯いて立っているだけ。
何処にも行く気も誰も待ってる気もないようだった。
欲しい。
少女は強い飢えを感じた。
ただ立ってるだけの、少し小柄な、微妙にダサい少年相手にそう思った。
人々は少年に気付かないように歩いていく。
むしろ少女の方に目をやりはする。
少年は誰にも見えていないようで。
もしかしたら、あたしにしか見えてない?
その考えは少女の気に入った。
自分だけのモノにしたかった。
「ねぇ、何してんの?」
少女はよそゆきの声で言った。
ああ、メイクを確認したら良かった。
この人はこういうの好きじゃないかも。
普通にしたら良かった。
少年は少女の声に顔を上げた。
感情の見えない瞳が少女を見つめた。
硬質な誰もそこには入れない部屋みたいな瞳だった。
少女は言葉を失った。
少年はとても綺麗だったのだ。
こんなに綺麗なのに地味なのが驚きだった。
いや、違う。
少女のためだけに綺麗だった。
沢山の人達のためじゃない、少女のためだけに綺麗だった。
そうだとわかった。
あたしだけの人なんだと。
「何にも。どうすればいいのかもわからない」
少年の途方にくれた声はすこし掠れてて、少女に向かってだけ囁かれるべき声だった。
「じゃあ、一緒に来ない?」
そう言う声が震えていた。
こんなの。
こんなの。
初めてだった。
名前知りたい。
名前。
「内藤」
聞いたら答えてくれた。
笑顔1つ見せないのがたまらなかった。
「おいでよ」
でも、いつもみたいに上手く誘えなかった。
ホテルやカラオケで身体を繋ぐアソビとはなにか違った。
とにかく。
彼を取り込まないと。
他の子に狙われる心配はなかった。
この人はあたしだけの人だ。
確信だけがある。
「どこ?」
どうでも良さそうに内藤くんが言った。
好き。
それだけでそう思った。
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