38 / 118
悪魔 8
ユウタにはこの世界が楽しい。
バカをバカらしく踊らせるのがいい。
人間とはどこまでおろかなのだろう。
欲しいものを与えて、そして、そのためになら何でもするようにさせればいい。
セックスと酒と愛と咳止め薬。
子供達はそれで踊る。
醜い大人に身体を弄らせることも何とも思わなくなる。
愛以外は本物だ。
セックスと咳止め薬と酒は、この世界を忘れさせてくれるのだ。
そして偽りであっても愛は子供達に意味をくれる。
その無意味な人生に意味を。
フェイクではあっても輝く愛さえあれば、世界は満ち足りてシアワセになる。
幸せに踊る彼らを、たのしませてやってから、最後はは引きずり降ろすのだ。
子供達は躍ることに夢中になって、何もかを捨て去った。
学校、家族、ストリート以外の人間関係。
そして、彼らがいろんな繋がりをうしなって、消えてもわからないモノになって。
売り飛ばされるのだ。
彼等が愛したユウタのために。
売られる瞬間の彼らが好き。
愛してるとさえ思える。
絶望しすぎて、泣き叫ぶことさえできないあの目が好き。
何に使うのかはわからない。
若い男女だ。
使い用はいくらでもある。
アルコールと薬を抜いて性病を治療して。
綺麗にしたら内臓だって使えるだろう。
女の子なら子供を産ませる工場にしてもいい。
子宮だって今は欲しがられているのだ。
格安の代理母だ。
とても言えないような趣味のための道具にしてもいい。
人間はまだこの世界では金になる売り物なのだ。
彼らは自分をモノにしてお金にかえていたけれど、本当にモノにされた時にその意味を理解しただろう。
ユウタは身体を弄られ金をもらうことを少年少女達に、相手から金を奪うことだと教えた。
自分のために頑張ってくれる愛なのだと教えた。
その金は夢になるんだと。
金は愛で、夢になり、普通に生きていたら出来ないことが出来るんだと。
だが。
金で売られるモノになるということは。
消費され、売られ、捨てられるということなのだ。
モノになる側の意識の高さなど。
買う側が気にすることはない。
彼らを売りとばすユウタの側も、だ。
キラキラしたものをみつめて飛び込むには、あまりにリスクが高すぎる。
それがバカだからわからない。
バカがバカであることを悟る時の目が好き。
絶望するのが好き。
でも、そろそろ飽きてきた。
カナが逃げてそれを追いかけているのは楽しかった。
カナはよく頑張った。
カナはバカじゃなかった。
本人のいうとおり。
だから殺されるのも見に行った。
カナが頼った逃がし屋を追うのも面白かった。
逃がし屋はまだ見つかってないが、少なくともこの街にはもう居られないだろう。
手は回してある。
カナ携帯を奪われたのはたしかに痛かった。
だが、あの逃がし屋は警察に行かないだろう。
自分もクズだが、あの逃がし屋の女も所詮はクズなのだ。
あの女の男は殺したから、女は戻ってくる。
ユウタを殺しにだ。
そういう女だ。
もう知っている。
それを待って。
女が現れたなら殺せばいい。
楽しませてくれたらいい。
バカを踊らせるよりは。
きっとそれは楽しい。
ユウタは1人歩いて通りへ向かう。
さすがに売り物の話をしにいくのに取り巻きを連れてはいけなかった。
しばらく姿を消していた。
だがユウタは他の街、それこそ九州まで遊びにいくのは誰もが知ってる。
アチコチの街に繋がりをもっているのだ。
そこの誰かと数日こっそり楽しんでいるんだろうとみんな勝手に推測する。
させておく。
それでいい。
刺激が欲しい。
バカじやないやつとやり合いたい。
カナよりもっと賢い奴がいい。
そんなことをおもいながら、いつもの通りへ向かったなら。
そこの様子がどこか違っていた。
騒ぎ声はいつもの通りなのに。
何かちがう。
なんだこれは。
ユウタは首を傾げる。
その笑い声は。
いつものどこか壊れた神経が軋むような音ではなかったのだ。
「いい?もう1回いくよ~!!」
元気の良い声がした。
「ヤダ!!」
「面白い!!」
「ヤバい!!」
きゃあきゃあ笑う声には、無邪気さしかなかった。
「だーるまさんが、こーろん、だ」
誰かが叫ぶ。
きゃあきゃあ
「ほら、るいちゃん、動いた!!アウト!!」
誰かが楽しそうに言う。
「ええ!!」
不服そうな声を、周囲が許さない。
「はい、もう1回いくね!!」
明るい声がいった。
わいわい
ガヤガヤ
きゃあきゃあ
騒ぐ声。
「たーるまさん、が、こーろん、だー!!!」
また誰かが叫んだ。
間違いない。
この通りで。
酒でも咳止め薬でハイになるのでも、酔って燥いでゲロを吐くバカ騒ぎでもなく。
だるまさんがころんだをして遊んでいるのだ。
無邪気に。
小学生のように。
楽しげに。
ユウタは目を丸くした。
そんなことは今までなかったからだ。
そして、それをユウタの奴隷達にさせているのは。
20歳くらいの、平凡で元気のよさそうな若者だった。
だから。
余計に。
気になった。
誰だ。
ユウタは警戒した。
何かがおかしい。
ともだちにシェアしよう!