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トラップ 6
「落とし前はつけなないとな」
ナツは呟く。
彼には悪いと想っている。
彼は大人しくナツが隠れ家にいると思っていて、毎日毎日電話をしてくれ、週に何回かはバイトの帰りだといって寄ってくれ、食料やらなんだかんだと差し入れを、してくれるのだ。
来る時は、あの無愛想なお友達と一緒にやってくる。
無愛想なお友達がいい。
彼といる時は表情があって、彼には心を開いているのがわかってキュンキュンする
彼が、「内藤ありがとう」「内藤ごめんな」と心から言う度、繊細な表情を見せるところがたまらなくいい。
このカップリングがマジ正解。
正義だろ。
尊い。
本当にそう思う。
彼とカレがいい。
絶対にシアワセになるやつ!!
あんな獣みたいな男に彼が組み敷かれる、人外攻めなど認めない。
獣人×平凡受け は地雷なのだ。
人間じゃない時点でなんか引く。
獣と人間ってなんか醒める。
人間同士じゃないとエロは発生しないだろ。
そこはナツの信念なのだ。
スバダリ大学生×地味ツンデレ美人大学生。
絶対美味しい。
ナツがこんな風に腐ってなかったとしてもだ。
初恋の相手には、より幸せになって欲しいじゃないか。
あの明らかになん人も殺してる化け物よりは、ツンデレのカレがいい。
彼が。
一人でしか生きて行けないようなカレを抱きしめるのだ。
分かってる。
これが終わった初恋の先を見てみたい気持ちから来ているものなのは。
誰からも好かれる彼が。
誰からも距離を置かれるようなカレを愛して幸せになるのをみたいのだ。
それは。
昔の自分達のようで。
そして、そんなBLがナツは大好きなのだ。
ホラーみたいに人外に執着され捕まって貪られる、身体から落とされる雌堕ちBLなんか嫌なのだ。
チャンスがあれば。
彼とカレをくっつけたい。
それはナツの願望だ。
絶対いい。
ナツは本気で狙ってる。
どう考えても。
彼にはあの地獄から来た男以外がいいのは誰に聞いても間違いないない。
「誰にも俺達の邪魔はさせねぇ」
耳元で低いバリトンが聞こえた気がして、ナツはビクリと身体を震わせたが、みまわしても誰もいなかった。
あの男の圧を受けすぎて神経がやられてるのだろう。
ほぼ呪いのような圧は毎日毎日感じている。
多分おそらく、何らかの形でずっとあの男は自分を見張っているのは間違いない。
あの男は彼を愛していて、手放さないと決めているのだ。
おぞましいモノでありながら、彼の傍にい続けようとしているのだ。
恥知らずにも。
それは。
ナツが出来なかったことであるからこそ、ナツはあの男が嫌いなのだ。
ナツは頭を降って気分をいれかえた。
大人しく隠れているのはナツにはできない。
彼はユウタから人身売買を追っているが、
ナツは人身売買のを半グレ組織の方から追っていた。
ユウタと共犯関係にあるこの連中が、カナを殺し、ナツの相棒を殺し、ナツを追っているのだ。
出来る限りは自分でカタをつけたい。
ナツは目を抉った相手と、他の2人、この3人の動きをずっと追っていた。
こいつらが。
実行部隊だからだ。
ナツに目を抉られた男まだ入院しているが、他の2人はもう仕事に復帰している。
ナツについてどう上に説明したのかは分からないが、とにかく、仕事を再開している。
麻薬よりもやばい仕事だ。
ヤクザでも中々手を出さない商売だ。
そんな仕事をさせられる人間は決まっているのだ。
目を抉られたとしても、両目を失わない限りはやめさせてもらえないだろう。
こういう仕事ほど、やり始めた以上はきちんと最後までさせられるモノなのだ。
まして。
半グレ。
ヤクザ達ほど、キチンとした組織じゃないからこそ、仕事が出来る人間は限られている。
代わりはきかない。
ヤクザが大手企業なら半グレは所詮下請けの家族経営なのだ。
ナツに目を抉られ入院している以外の2人が動き始めた。
ナツは彼らを尾行していく。
見つからないように逃がすのが本業のナツは、気付かれず後をつけるのも上手い。
オフィス代わりに使っているマンションから彼らが出てきて、堂々と路駐している車に乗り込む。
近隣の住民は怖がって通報などしないのだ。
盗んだバイクで後を追うことにした。
彼はユウタの側から人身売買を追ってるが、半グレ組織の方からも追ったほうがいいはずだ。
「ナツ。今度こそ守るから」
そう言ってくれた彼の真剣な目に胸が傷んだけど。
この世界でただ1人ナツを守ろうとしてくれたのは彼だけど。
ナツはやはりナツなのだ。
守られるのは性にあわない。
「ごめんね。あたし、馬鹿だからさ」
ナツはヘルメットをかぶり、バイクにまたがり、彼に向かってあやまる。
大人しく隠れていると思っているだろう彼に。
「全くだ」
低い声が聞こえた気がするが、やはり気のせいらしい。
あの男の生霊に取り憑かれているのか。
ナツは珍しく怯えた。
あの男ならやりそうだったからだ。
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