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トラップ 10
ナツはバイクを止めた。
この数日、気付かれないように男達をつけてきた。
ナツをさらおうとした3人だ。
1人は少し肉体を損なった。
切り取って、捨てた。
ナツの恋人を殺した男だから、これから長い付き合いになる。
毎年毎年、少しずつ肉体を奪っていく。
殺さない。
彼との約束だから。
毎年毎年ナツが訪れるのを待ち、肉体を失うがいい。
殺しはしないけど。
他の2人に関しては、彼は警察に渡したいようだけど、どうだろう。
ナツはその判断が正しいとは思えない。
一番利益を得ているヤツは野放しになるわけだし。
ナツは2人が入っていくマンションを確かめた。
双眼鏡で、彼らが入口で打った部屋の番号も確認する。
部屋番号確認。
ナツはバイクを置いて裏へと回る。
撃ち抜かれた左肩は痛むが、あの医者は確かに腕がいい。
経過は素晴らしくいい。
中身は下劣だが。
ナツはマンションを見上げた。
隣りの建物が密接してる、手足を伸ばして届かない位の幅だ。
2階の通路が見える。
この壁さえ登れば、マンションに入り込める。
片腕でもいけるか?
ナツはやってみることにした。
隣りの建物の壁を蹴りその反動でマンションの壁を蹴る、動く左腕も使っておす、そしてその反動で反対側の壁を蹴る。
ナツは瞬く間に、2つの壁を使って蹴り上がってしまった。
通路のフェンスを左腕で一本で引き上げる。
ナツは指一本で身体を支えられるのだ。
反動を使い、くるりと背中から回ってナツは通路に降り立った。
侵入成功。
ボカンと目を見開いてドアを開いたまま立っている男が通路には立っていた。
ナツは、笑ってポケットから携帯をとりだした。
「許可は得てます。今、配信してるんですよ!!笑って!!」
そう言うと男はホッとしたように笑った。
その方が安心出来るからだろう。
手を振ってナツは階段に向かう。
駆け上がった。
ここにヤツらがいる。
インターホンを押してドアを開けさせてもいいが、それでは騒ぎが過ぎるか。
ナツは屋上を目指した。
このマンションは6階。
屋上から少し降りれば、窓から中を確かめられるかもしれない。
この男達のような仕事に事務所はいらない。
ここに来るということは何らかの意味がある。
しかもヤツらはスーパーで大量の買い物をしてから来たのだ。
おそらく食料品。
大体見当はついている。
屋上へ向かう最後の階段には金網の扉がつけられておた。
南京錠で開かないようにしてある。
ナツはいつも持ってるピックで簡単に開けてしまう。
バイクや車の鍵や家の扉に比べたらこんなもの。
ナツは屋上へ駆け上がった。
ナツは屋上が好きだ。
自由になった場所だから。
彼はナツの代わりに苦しんだだろうけど、ナツは後悔していなかった。
父親を解放したのだ。
壊れた脳の中に閉じ込められていた父親を。
いつか父親に殺される代わりに。
父親は完全に壊れていた。
今ならわかる。
アルコールは脳をもう戻らない位に壊すのだ。
ナツは屋上のフェンスを乗り越え、縁から下を確認する。
ベランダがみえる。
そして、ベランダのフェンスも。
イケる。
ナツは確信した。
そしてフワリと飛び降りた。
タン
ナツはベランダのフェンスの手すりに降り立つ。
そしてまた、フワリ。
タン
ナツは目的の階にたどり着いた。
ベランダの手すりにむかって、降りていきながら。
手すりからベランダに入る。
中から見られる心配はなかった。
窓は中から木の板に覆われ、外からは見えなくされていた。
やっぱり。
ナツは確信する。
ここは。
売られる子供たちが閉じ込められている、保管庫なのだ。
売り手に渡すまで、ここに監禁しているのだ。
子供達の何人かは、まだ売られていない。
ここにいる。
急がなければならない。
ナツはとりあえず離脱することにした。
ベランダのフェンスの手すり立った。
フェンスを階段代わりにしてそのまま下まで降りるつもりだった。
だが。
「スゲーなあんた!!」
声がした。
男が2階から歓声をあげていた。
通路であったあの男だ。
携帯で写真を撮りまくっている。
いけない、そう思った。
ナツはフェンスすの手すりを駆け、飛び降りまたフェンスに着地し、斜め下にあるその男のベランダへと向かっていく。
瞬く間に写真を撮っている男の前のフェンスに降り立ち、携帯を奪い取った。
だが、そのために、左肩が酷く痛んだ。
だから。
思わす、バランスを崩してしまった。
ナツは落下していく。
大丈夫、なんとか体勢を建て直して、2階からなら、
いや、間に合わない。
ナツは頭から落ちる人間にしか見えない視界を見ていた。
しくった。
彼に伝えないといけなかったのに。
子供達はあそこにいる、と。
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